26 mai 2001 -
すでにトップページでご報告していたように、4月末にリリースされた、るいるいクインテットの国内盤「ラフロントマン・デ・プレタンダン」(ユニバーサル、UCCE-1010)では、ライナーを書かせていただきました。
何度も書いてるような気がしますが、ほんとにほんとにこのアルバム好きなので(ECMでレコーディングした中でも図抜けてるよ〜)、とにかく自分では悔いの残らないようにできるだけのことを書いたつもりです。ECMウェブ通販で手に入れた頃は、まさか国内盤が出る、そればかりか自分がライナーを担当することになるとは夢にも思っていなかったので、この「るいるい日記」でいろいろアルバムについて書くつもりでいたのですが、けっきょく、主なことはみんなライナーに書いてしまいました(^^;)・・・とはいっても、4000字という制限のなかでは直接触れられなかったことが残っています。
ユニバーサルの担当者の方からライナー依頼をいただき、あわてて手元の資料をひっくり返しても判らなかったことがいくつかあったので、私は意を決してルイに直接質問を送り(2月10日)、そしてルイから返事をもらっていました(2月13日)。なんだか自分ひとりで持っているのが勿体ないので、るいるいサイト4回目のお誕生日を迎えた翌日^^;であるきょうの「るいるい日記」では、ルイからもらった返事を中心にまとめてみたいと思います。
「Jazzman」2001年2月号に載ったルイのインタビュー(この記事がなかったらライナーはもっと貧弱になってしまっていたはず。定期購読していて良かった!)でルイが、「L'affrontement des pretendants」という言葉はドゥルーズの引用だと言っているのが気にかかりました。本のタイトルは出ていなかったけど、どの本だかおよそ見当がつくヒントがあり、幸い邦訳もあったのでさっそく購入。しかし、それらしき言葉が見つからない。なんとなく「このへんの話が近いかな〜」と思われるところはあるけど、はっきりしない。だもんで念のため、「その本って○○○のこと?」と質問FAXに書いたところ、ルイの返事にははっきりそうだと書いてありました。
それで私はすぐに○○○の原書を注文し、原稿しめきり数日前に届いた本を隅から隅まで見た(読んだ、じゃないのよ〜^^;)のだけど・・・見つからない。原書はドゥルーズの死後に再版されたペーパーバックで、未発表の短い原稿が追加されていたのだけど、そっちでも見つからない。というわけで、ほんとにその本○○○からの引用なのか、確認できずにいます。もしかしたらルイがドゥルーズの他の本と間違えてるとか、あるいは読んだときに自分で思い浮かんだ言葉なのかも・・・「おまえの目は節穴か。ちゃんと○○○の**ページ**行目に出てくるわい」とか「いや、その言葉はドゥルーズの(あるいは他の著者の)この本に出てくる!」とご存じの方、ぜひぜひご一報ください。お願いします。
ただ、もちろん、ライナーにも書いたけれど、ルイはタイトルの出典にこだわったりドゥルーズの思想と絡めて音楽を聴いてもらおうなどとは全然望んでいません。もらった返事でも、本が○○○だと書いたそのすぐあとに、ルイはこう付け加えていました。
でも、音楽とタイトルを無理に引きつけないように。他のタイトルのほとんどについてもね。ひとりひとりが、これらの言葉に自分の望むような意味を与えることができるし、そのことが僕の興味をひくんだ。僕は音楽をタイトルで定義しようとはしていない。
「Jazzman」のインタビューでも、「ジャン・ダニエルー枢機卿の著した死海文書の研究書の引用である『Ceux qui veillent la nuit』と同じような手法でつけたタイトル。こんな風に音楽と全然関係ない言葉をタイトルにするのが面白いんだ」といったことを、ルイは話していました。でも、ジャン・ダニエルーの本には、Ceux qui veillent la nuitという言葉がそっくりそのまま出てくるのよねー。それも、ダニエルーが大昔のギリシャのキリスト教神秘主義哲学者の著書から引用してた言葉だった(あっでも誤解されないように書いておくけど、ルイ本人はまるっきり無神論者なの。もーそのへん彼はすっごくドライよ〜^^;)。
さて、「Jazzman」のインタビューでもほとんど話題になっていなかったのだけど、もうひとつ気になっていたのが「ルネス・マトゥブへのオマージュ」でした。
わたしは、ECMのホームページの新譜紹介ページにルイのアルバムが載って曲名を見るまで、Lounes Matoubというひとのことを何も知らなかった。あわてて調べて、彼がアルジェリアのカビリア地方出身のシンガー・ソングライターであること、98年6月に故郷アルジェリアの自宅近い山中で、車に乗っているところを武装グループに襲撃され、家族や婚約者の目の前で殺されたこと。ちょうどサッカーW杯が開催されていた頃のフランスでは、彼の訃報にシラク大統領やジョスパン首相も追悼の意を表したこと・・・などがわかりました。彼の死後、ルネス・マトゥブ財団という団体が設立されてフランスで活動を行っています。
しかし、都内の大手輸入盤店をいくつか回っても、その時点ではマトゥブのアルバムは一枚もなく、アルジェリア音楽ではハレド、シェブ・マミ等ライの有名なシンガーかいわゆる民俗音楽のCDしか見あたらりませんでした。じゃあ日本ではあんまり紹介されてないのかなーと思って、どうしてルネス・マトゥブをとりあげたのか質問してみたところ、ルイはこちらにもちゃんと返事を書いてくれました。
ルネス・マトゥブにオマージュを捧げたのは、世界各地に見られるある現実を示し、ある人々の勇気やレジスタンスについて語りたかったから。これは闘う人々へのより普遍的なオマージュであって、特にルネス・マトゥブの作品を参照したというわけではないんだ。
これを読んだとき、ハッとしました。今回のアルバムと同じようなコンセプトでタイトルをつけたという『Ceux qui veillent la nuit』、その表題曲・・・ルイは、「夜眠らずに見張りをしている者達」というこの言葉に、戦争や軍事独裁、ありとあらゆる世界の「夜」から目を背けず、逃げず、眠らずに「夜」と闘っている人々を重ね合わせている(「ジャズ批評」100号掲載インタビュー参照)・・・「Ceux qui veillent la nuit」と「ルネス・マトゥブへのオマージュ」は、どちらもイスラム風の旋律をもっているという共通点以上に、深いつながりを持っている曲なのだと思います。
少なくともこの2曲が、安っぽいオリエンタル趣味で書かれたものでない、ということだけは、聴き手の方々に伝わっていてほしいと願わずにはいられません。
そしてルイ、ものすごく忙しいはずなのに、すぐに返事を送ってくれて、ほんとうにありがとう。