29 aout 2002 -
今年7月7日、フランスの有料TVチャンネル「Paris Premiere」で、ルイのさまざまな活動を取材した約1時間のドキュメンタリー『Les Aventures de Louis Sclavis』(邦題『るいるい大冒険』←ウソです)がオンエアされ、私は幸運にもこの番組を観ることができました。
とても興味深い内容でしたし、また日本ではまったく知られていないルイの音楽活動の一端も紹介されているので、ここで内容をご紹介したいと思います。
このドキュメンタリーは2002年制作ではありますが、実際にルイを取材したのは2000年頃のようです。なので、ルイがちょっと「ぽっちゃり」しています(^^;;;
カメラはまず、楽器を背負ってSelmer社ビル(パリ?)に入っていくルイの姿をとらえます。こぎれいなレセプションから階段を上がって、工房へ。クラリネットの何かを直してもらってるようなのですが、私が見てもよくわかりません(^^;)。顔なじみの楽器職人のお兄さんと話をしたり、バスクラの試奏をしてみたり(部屋で「over the rainbow」がかかっていて、さりげなくそのメロディを吹いてみたりする)。
場面は突然変わり、ステージに置かれたテーブルを前にして、椅子に腰掛けたまま演奏をするルイとジャン=ピエール・ドゥルーエのライヴ演奏になります。ドゥルーエはテーブルの上においたさまざまなオブジェを叩いています。お皿のようなものや、なぜか「おうまさんの人形」もあります。ルイはというと、彼もテーブルの上に置いたバスクラを何か(スプーンのようなもの??)で叩いているのです。これがけっこう上手くてびっくり。
ここで、ルイの自宅(というよりたぶんルイが仕事用に持ってる部屋だと思う。Sax Magazineに載ってた部屋と似てるから)でのインタビューが挿入されます。ルイは、フリーインプロヴィゼーションは自分の音楽性や技術を磨くのに不可欠だ、みたいな話をしてるっぽいのですが(自信なし)、その話をしながら手に持ったCDケースの端を口で加えたりしていて、子供みたい(^^;;;
ドゥルーエとのステージに戻ると、ドゥルーエのヴォイスパフォーマンスとルイのバスクラがおしゃべりをしているのでした。
ルイが仕事場の白い壁の前でバスクラを持って、バスクラの演奏技法の探求を実演してみます(この仕事場で収録した映像には、いつも外でチュンチュン鳴いている小鳥の声が入っているの。窓から中庭が見えるので、そこに小鳥がたくさん来ているのでしょうか)。手にとったのはブリキのおもちゃ。どうぶつ?の絵が描いてある缶に小さな手回しハンドルがついていて、それを回すとプチン、カチン、って親指ピアノみたいな音がする(Musica Jazzのレイズグルとのデュオで、最初に聞こえる音はこれだったのか!)。それをバスクラの中に入れて、片手で回しながら吹き始めるルイはおちゃめ(*^^*)
そうこうしているうちに、画面はロマーノ&テクシェ&ルイのステージに変わります。さすがに一番人気のあるトリオなので、番組の前半でかなり長くとりあげられていました。曲はみな一部分ですが、「les petits lits blancs」「Standing Ovation (for Mandela)」「Annobon」、それから、ルイがバスクラでアフリカの楽器みたいな音とメロディを吹いてみせる場面も(アルバム『Chine』に入っている「Riviere Salee」みたいな感じ)。合間には、トリオ結成のいきさつやアフリカツアー等についてのルイのコメントが入ります。ルイはトリオのアフリカツアーを「3人のタンタンの冒険みたいなもの」なんて言ってます。うう、おやじタンタン3人(^^;;;しかしアルド・ロマーノって妙に色気あってカッコいいですね。女の子10人束にして喰ってそうなイタリア伊達男(偏見)としてエンリコ・ラヴァと並ぶものがあります。
どんなふうに新しいプロジェクトを作っていくか、というルイの話に続いて、「らふろんとまん」クインテットのリハーサル風景が始まります。ここで皆が演奏しているのが、どうもアルバム未収録曲みたいなんだけど、ナゾ。
続いて実際のステージが始まり、メンバー紹介の後ルイがこう言います。
「これから、新しい組曲を演奏します。タイトルはまだありません。演奏するのは今日が初めてで、そのことをとても嬉しく思います」・・・そうして始まるのが、「Dans la nuit」の収録曲。このステージ、いつだったんだろう?「Dans la nuit」のレコーディングが終わった直後なのでしょうか。ちなみに、リハーサルで演奏していた曲は出てこないので、ナゾのままです。
続いて、また別のリハーサルスタジオらしき場所で、なんとも不思議な光景が映し出されます。クローディーヌ・ブラエムという女性は、確かジャン=ピエール・ドゥルーエの奥様だったと思いますが、彼女が作成したナゾの楽器??機械??をルイが試しているのです。
それは木製の巨大ミシンといえば一番イメージに近いでしょうか、引き出しのついたテーブルの下には2枚の踏み板、右側には水車のような輪(羽に溝があって、たぶんビー玉とかのころころ転がるものが入っているらしい)、左側には巨大糸巻きのようなものが2つ、上下互い違いについています。テーブルの脇には親指ピアノの大きいのがついているし、弦も張ってあるし、他にもいろいろ仕掛けがしてあるみたい。でも、全部「木」でできているのでメカっぽくないし、ミシンに似ているせいもあって、女性的なあたたかい感じがします。ルイはいろいろ試していくうちに、踏み板をリズミカルに踏みながらクラリネットを吹き始めます。がっちゃこんがっちゃこんという音が、次第にグルーヴ感あふれるビートになっていくのが不思議。ここでルイの吹くクラリネットがカッコいいのです。
『今日から始まる』のサントラ盤をCDプレーヤーにセットするルイの姿がインサートされた後、画面はサントラ盤収録曲「L'enfance ethnique」を演奏する「Five Easy Pieces」のライヴに変わります。ルイ、ミッシェル・ゴダール(tuba)、イヴ・ロベール(tb)、フランソワ・コルヌルー(sax)、ローラン・ドゥオール(cls)のフランス管楽器軍団(^^;)が、まあ実に軽快に楽しくあの曲を吹いています。
「ローラン・ドゥオールとはあまり面識がなかったけど、前からぜひ一緒に演ってみたいと思っていたので、このプロジェクトに招いた」とか、「メンバーそれぞれの自作を演奏したかった」といったルイのコメントが挿入され、イヴ・ロベールの「le sport a la tele」や、ミッシェル・ゴダールの「Night is still young」が続きます。
さて、ここから後半、というよりこの番組最大の貴重な映像が始まります。
仕事場のルイが、モニターで「Dans la nuit」の映像を見ながら、ピアノで曲をつけている!
しばらく音をつけていたルイが、突然宙に向かってパン!と手を叩きます。すると、ピアノの上に乗っていた「あひるちゃん」のぬいぐるみが、踊りながら「くわっくわっくわっ」と歌い出す!(なぜか「イーアイイーアイオー」の七面鳥の歌^^;)ルイも歌に合わせてピアノで伴奏をつけます。イーアイイーアイオー、ちゃん。
うーむ、作曲で煮詰まるたびにルイはこの「あひるちゃん」で遊んで和んでいるのでしょうか。
カメラはこのあと、ベルトラン・タヴェルニエとルイが映画について語る様子や、ピアノやクラリネットで映画に音をつけていくルイの姿を映し出します。
『今日から始まる』のワルツのテーマをかけながらアコーディオンを弾く真似をしたり歌ったりしていたルイが、アルバム『Danses et autres scenes』のなかから選んでかけるのが、「le moindre regard」・・・アルバムのなかでも印象的な曲のひとつですが、ルイはこの曲を「ブリューゲルの『狩人の帰還』をイメージして作った。自分の曲のなかでも一番気に入っているもののひとつ」と言い切っています。ああ、そうだったのか!と、驚きと同時に納得もしてしまうのでした。
ラストは、やっぱりこれでなくっちゃの「L'affrontement des pretendants」ライヴ。ルイのもの凄いソロから、ブルーノとヴァンサンのベース&チェロが炸裂する後半部が映し出されます。でも、曲が最後まで行かないうちにライヴ演奏からクレジットに変わってしまいます。曲を終わらせなかったのは、ルイの冒険がまだ途中、これからもずっと続いていくことを暗示させているのでしょうか。
クレジットが一通り出た後、再び仕事場にいるルイの姿が映ります。
「puis...... puis...... et puis voila ! 」
それから、それから...そんなわけです、と照れ笑いするルイは、くまのぬいぐるみみたいでカワイイのでした(*^^*)