28 juillet 1999 -
『ジャズ批評』誌によるブルーノ・シュヴィヨン・インタヴューは、ただいま発売中の100号に掲載されておりますが、今回は、その記事に載せきれなかった【番外編】中心に、ブルーノが話してくれたことをいくつか(ほんのさわりね)書きたいと思います。掲載をご快諾くださった『ジャズ批評』編集部の岡島さんに感謝します。
インタヴューで話してもらった大事なことは、みんな『ジャズ批評』100号に載ってるから読んでね。
1999年1月18日、都内某所でのインタヴューは、主に岡島さんが聞き手となり、なぜか私も同席させていただき、英語だったり通訳の方に入っていただいて仏語だったりその通訳担当の方が途中でいなくなってしまったのに仏語だったり("火事場の馬鹿力"とはこのことよーっっっ)しながら行われました。
さて、今年のユメール・トリオ、ルイ・トリオで、あるいは最初のルイ・カルテットやアコースティック・カルテットで、ステージのブルーノ・シュヴィヨンをご覧になった皆様。その端正な容姿&超絶技巧をあくまでクールに操るその演奏で、彼に【寡黙な人】というイメージを持っていませんか?じつは私も実際に会うまでは、てっきりそういう、物静かな近づき難い人だと思っていたのです、が...
とおんでもない。
ジャズ批評の記事で彼がイタリアとフランスのハーフだってことには触れましたが、そのせいかどうか、ブルーノは「南欧系ラテン魂炸裂」型明るいおしゃべり好きなおにいちゃんだったのでした!
たとえば、「クラシックとロックからの影響」について話してくれたときも、実際はこういう調子だったのだ!
...オレ、コンセルヴァトワールでクラシックと現代音楽の勉強したじゃん。それにロックも好きだしさあ、だからたぶんジャズよりそういう音楽の影響のほうが大きいんだよ。好きな現代音楽の作曲家?そうだねー、ベリオ、ノーノ、ラッヘンマン、あ、フランコ・ドナトーニもいいよ、それからリゲティ、タン・ドゥン、もちろんシェーンベルクとかベルクとかも...あっオレ、××××(某超大物ジャズミュージシャン)よりレッド・ホット・チリ・ペッパーズの方が好きっ!
...オレらの世代の連中ってたいていそうだけどさ、最初はロック聴いてるわけ。イエス、レッド・ツェッペリン、ジェネシス、ローリング・ストーンズ、それから...そうそうキング・クリムゾン!『RED』ってすっげーいいアルバムでしょ。オレ、△△△△(別の某超大物ジャズミュージシャン)よりキング・クリムゾンの方が好きっ!
ほんとなのよお。インタヴューを録音したMDを聞き返していても、私にはこういう調子でしゃべってるように聞こえるのよお。
アートスクールに通い、写真を撮っていたブルーノに、今でもその作品を見るチャンスはあるんですかと聞いたときも、こんな感じでした。
ないよっ(笑)。ダメダメ、もうむちゃくちゃ古いもん。おしまいおしまい。ドミニクの"Oblique"のジャケットのが一番いいからさ。
え、ギ・ル・ケレク?ん〜もう、オレの師匠ね。実はオレ、アートスクールに入ってさ、図書館で最初に手にとった写真集がギ・ル・ケレクのだった。これ、全くの偶然。
でもオレ、今どっちかっていうと写真より、インスタレーションとか彫刻とかのほうに興味があるの。そういう美術作品からインスピレーションを受けることも多いよ。むしろコンサートに行くより美術展を見るほうが刺激的だったりするしさ。特に好きなのはミニマル・アートの作家とか。あ、日本の河原温、いいよね。ナム=ジュン・パイクも大好き。
音楽とアートの共演に興味があるかって?そういうのって'70-'80年代は盛んだったけど、最近はそうでもないんじゃない?オレ自身は1回だけ画家と共演したことがあるよ。画家が自分の両手首にマイクをつけて、オレの方もコントラバスにマイクをつけて、お互いの音をマイクで増幅させてダイレクトにミックスするの。その音にあわせて、回りに並んでいるモニターの映像がどんどん変わるんだよね。あれは面白かったなあ。
今でも生まれ育ったアヴィニヨンに住んでいるブルーノ。パリに拠点を移そうと思ったことはないのでしょうか。
いや、実をいうと今はパリに行きたいの。でも、子どもが小さいからさあ、ちょっとね。息子と娘がいるの。んふふふふ(←ナゾの笑い)。でも、そのうちにね。
ひえええ、ブルーノ・シュヴィヨン=「二児のパパ」と判明!こういうカッコいいパパを持つ娘の心境を、お嬢さんが大きくなったらインタヴューしてみたいぞ!
と、ミーハー魂が炸裂したところで、アヴィニヨンの音楽シーンの現状についても聞いてみました。
アヴィニヨン在住の、今活躍しているジャズミュージシャン?ほとんどいないねえ。パリに出てったヤツが多いよ。アヴィニヨンてさ、特殊な町なの。演劇フェスティバルがあることは知ってるよね?あのフェスティバルには現代音楽のプログラムもあって、フェスティバル期間中にはいろんなコンサートが聴ける。だけど、アヴィニヨンの住人が現代音楽を聴くチャンスって、そのときだけなんだよ。つまりさ、1年に1ヶ月、フェスティバルの間だけ盛りだくさんにイベントがあってさ、残りの11ヶ月はほとんどなんにも起こらないの。も、ほとんど文化的砂漠状態ね。
ジャズとかインプロ系に関しては、L'AJMI(注:"ラジミ"と読むそうです)っていうクラブが20年くらい前から凄くアクティヴに活動していて、いい企画のコンサートをやってるんだけど、それが唯一だねー。
さて、この日のために持ってきた1枚のCDがありました。 すてきなカッコいいベーシストのエレーヌ・ラバリエールお姉様 Helene Labarriere &ピアニスト兄(弟?)のジャック Jacques Labarriere が、2人のお兄さんで1991年に亡くなった詩人ドミニク Dominique Labarriere の遺したテクストを基につくりあげたアルバム。そのリヴレットの裏に、「ブルーノ・シュヴィヨンとジャン・ロシャール(NATOレーベル創設者)に大感謝」って書いてあるのです。
エレーヌのアルバムね。オレは演奏は一部にしか参加してないけど、彼女に頼まれてレコーディングのときにいろいろアドヴァイスしたの。ミキシングとか技術面のほうね。ジャン・ロシャールはもっとエステティックな方面でやっぱりいろいろアドヴァイスした。これ、いいアルバムでしょ。それに詩がすっげーいいんだよ、難解だけどね。
そう、ブルーノが言うとおり内容も、それにブルーノだけじゃなくゲスト(イヴ・ロベール、ジャン=ルイ・マティニエ、ブノワ・デルベック、ギヨーム・オルティ...)も素晴らしいアルバムなのに東京のお店で見たことない。納得いかない。私はフランスから直接取り寄せてようやく手に入れたのだ。ぷんぷん。
「オレ、昨日まともに睡眠時間とれなくてさー。眠いよー」とか言いながら元気に楽しくおしゃべりしてくれたブルーノですが、ピエル・パオロ・パゾリーニをめぐるソロ・コンサートの話題になったときの彼は凄く真剣でした。内容はほとんど記事に載っているのでここでは繰り返さないけど、パゾリーニについて話を聞けたのは、ほんとに良かったなあって思ってます。ちなみに、映画で一番好きな作品を聞いたときの答えはこうでした。
『アッカトーネ』!パゾリーニが最初に撮った映画。これは凄いよ。あとは『テオレマ』だねー。
んで、わたくし。インタヴューのあと、すぐにパゾリーニの詩の仏語訳アンソロジー(詩集の邦訳はいまのところ出てないので。一度、現代詩手帖で特集を組んだらしいのでそれを手に入れねばと思っているのだが...)を注文し、なんとかルイ・トリオの来日前に手に入れたので、ツアー最終日(3月20日)のエッグファームで、ソロコンサートのときに読んでいるパゾリーニの詩がどれか教えてもらったのでした。
この、ジョゼ・ギディ Jose Guidi って、フランス最高のイタリア文学翻訳家なんだよ。んー、しかしオレが持ってる仏語訳と違うから探しにくいなあ...でも面白いよ、こうやって見比べるの。えーと、これとこれと...ああ、ひとつだけ足りないや。コンサートの最初に読んでるのだけ載ってない。あとはこの5つ。最後のこれは、コンサートが終わってアンコールをもらったときに、演奏なしで朗読だけしてるんだ。
と、それぞれの詩の、全文じゃないときはどこからどこまで読んでいるかまで「」をつけて教えてくれたブルーノに感謝。でも、どの詩だっていう話をしようと思っても、確定した邦題があるのかどうか???いろいろ調べないといけない(そもそも、読まんと...^^;)ので、続きはまたの機会にゆずりたいと思います(と、逃げる^^;;;)。すみません。