泊めてもらっている友人宅で午前中をのんびり過ごしてから出かけて、エスパス・ジャポンに着いたのが
お昼前。開館時刻は午後なので扉は閉まっており、佐藤さんが鍵を開けて中に
入れてくださいました。お仕事中とのことで、私はその場で待つことに。
エスパス・ジャポンは1階が受付と日本の書籍を集めた図書室になっています。
児童文学の棚には古びた『少年探偵団』シリーズなんかもあって、小学校の
図書室みたいで懐かしい。
エスパスの関係者やお客様らしい方々が数人入ってきて、新年の挨拶を交わしているのをぼんやり眺めていると、すごおく背が高くて細ーいお兄さんが入ってきました。
「こんにちは。私のこと覚えてますかー。あなたと大里さんのコンサートにミッシェル・ドネダが出たとき・・・」
「えーっっっ!なんで君がパリにいるのお!?」
と驚きまくるジャン=フランソワ・ポーヴロス。ムリもない(^^;)
佐藤さんも降りてきて、エスパスのすぐ近所にあるレストランに向かいます。
外に出たところで、もうひとりの男の人にいきなり「君がミキコなの!?」と言われてビビる私。
「僕、君のこと知ってる!FennecのMLにときどき書いてるの、読んでるよ!」
「わーーーー」
やだもう私ったらおばかさん。彼が、ジャン=マルク・フッサ Jean-Marc Foussatだってことにようやく気づきました。彼はポーヴロスと佐藤さんが組んでいるMarteau Rougeのメンバーで、Potlatchレーベルの共同経営者(だと思うんだけど、違うかなー^^;)、Potlatchはじめ、パリやリールあたりのインプロ関係ライヴ実況録音盤っていうとたいていこの人が録音しています。帽子と眼鏡のよく似合う、とても穏やかな人。
「日本から戻ってきてすぐ、アンスタン・シャヴィレでライヴをやったんだよ。そしたら、会う奴会う奴に『東京でドネダと一緒に演ったんだって?』と言われて驚いたね。君がMLに書いてくれたんだって?」
と、e-mailアドレスを持っていないジャン=フランソワは面白がってます。
フランクにもらったんですよー、と、灰野さんとの共演ライヴ盤(これも録音はジャン=マルク・フッサ)を見せると、
「もう持ってるの?早いねえ。でも、これはクレジットに誤植が多かったんで、訂正して再プレスすることになってるんだ」
見れば確かに、アクセント記号がつくべき文字が全部抜けて空白になってしまってます。フランスで作っていても、そんな豪快な誤植もあるのねー。
Haino - Pauvros / Y Shambala Records, SHAMB 99003 K. Haino J.-F. Pauvros F. Causse 都内のレコードやさんにも入ってきましたねー。 さて誤植は直っているのでしょうか。 |
sympathiqueでおいしいレストランでの会話は大いに盛り上がりました。
佐藤さんがたとえば「日本人は108の煩悩があって、毎年の大晦日には寺で鐘をついてその煩悩を追い払う」とか「善人なおもて往生を遂ぐ。いわんや悪人をや」ってというのを面白おかしく説明すると、フランス人にウケるウケる。隣のテーブルの知らないおじさん達まで笑ってた(^^;)
本題の「Marteau Rougeの今後のバンド活動について」についてはやっぱり私の耳がついていけなくてよくわからなかったけど、こうしたカテゴライズが難しい音楽は演奏の場がなかなか見つからなくて苦労されているようでした(場所によって「全然ジャズじゃない」と言われたり「フリージャズすぎる」と言われたりしてしまうそうです)。
ともあれ、会話力の弱い私に気を使って下さる皆さんのおかげで私はとても楽しいランチタイムを過ごすことができました。ポーヴロスはできれば今年中に再び日本に行きたいと思っているそうで、また東京で会えたら嬉しいなあ。
私は一度友人宅に戻り、ブノワ・デルベックに電話を入れました。今夜はブノワの新クィンテットと、彼がスティーヴ・アルグエルと一緒にやっているテクノ・ユニット Les Ambitroniques のライヴがあるのです。
ブノワによるとチケットはほぼ売り切れの状態とか。コンサートは夜8時半からだけど、会場が遠いし、早めに到着できるように動かなければ。
そこで私は2つのお店に目標をしぼってでかけました。
最初に出かけたのは、パラレル PARALLELES という本屋&レコードやさん。ミッシェルに教えてもらったお店で、このへんの人たち(^^;)の間では有名らしい(ローに聞いたら、「知ってる。わたしが中学生くらいの時からあるお店。昔はパンク専門店みたいな感じだったのよー」と言ってた)。
Librairie PARALLELES
47 Rue St. Honore 75001 Paris
最寄り駅はシャトレ・レ・アール Chatelet Les Halles、フォーラムのすぐそば。
明るい店内の手前が書店、奥がレコード店。CDはロックやテクノ中心で、ロック好きの男の子たちでにぎわってました。中古アナログ盤のコーナーはフランスのプログレバンドのLPが多く、私はよくわかんないけど詳しい人がみれば掘り出しものがあるのかも。
書店は文学、社会科学、アートとジャンルはいろいろだけど、仕入れている人の選択眼が感じられる品揃え。いまブームというギイ・ドゥボール関連書籍が数種平積みになっていたり、アナーキズム&コミュニスム関連の小冊子や機関誌みたいなので1コーナーつくってあったり、明らかに「左翼系本屋さん」なのでした。レコード店が入ってるだけあって、Revue et Corrige, Peace Warriors, Octopus... と、音楽系ミニコミが一通り揃っているのも魅力的。
ここならあるかな、とレジのおじさんに探している本を訊ねたのですが、入荷してないといいます。
「明日の午後同業の知り合いが来るので、彼に聞いてみることはできますよ」
と親切に言ってくださったのですが、私は明日の昼に飛行機に乗ってしまうのでそれはムリ。お礼を言って店を出ました。
レ・アールまで来たものの時間がないのでフォーラムの中を見るのはやめにして、メトロを乗り継いでピガール Pigalle へ。最近オープンしたばかりというルイユ・デュ・シランス L'Oeil du Silence という、やはり本屋&レコードやさんです。
L'OEIL DU SILENCE
94 Rue des Martyrs 75018 Paris
最寄り駅はピガール Pigalle またはアベス Abbesses。
洒落たたたずまいのお店を見つけ、ドアをあけると、小さな店内の主に右半分がCD、左半分が書籍の棚になっています。CDはびんぼーたわーと近い路線の品揃え(フリージャズ、インプロ、エクスペリメンタル系...)。書籍は美術、音楽、映画関係、なかでもビザールなやつに力を入れていて、よよよりによってトム・オブ・フィンランドの分厚くて巨大な画集まで...うわーー絶対ほしくない(^^;)仮に欲しくて買ったとしても税関通れるんか??
そんなお店だから、どんなにエキセントリックなお兄さんが店番してるかと思いきや、全然違うの。五十代半ばとおぼしき優しそうなムッシューがニコニコと応対してくださるのです。奥の部屋にいた奥様らしいマダムもとても感じの良い方。
思えばさっき行ったパラレルで仕事してたのも、みんな四十〜五十代のおじさん達だった。あーつまり68年5月革命の世代ってことなんだろうな。
ここでついに、探していた本をゲット!
Vincent Cotro CHANTS LIBRES - Le Free Jazz en France, 1960-1975 Preface de Didier Levallet Editions Outre Mesure, ISBN 2-907891-19-7 フランスにおけるフリージャズの歴史をその前史から 現在の動向も含めて検証する、フランスでも初めてという本。 登場するのはジェフ・ジルソン、バルネ・ウィラン、ポルタル、テュスク、 ショータン、ヨアヒム・キューン、ワークショップ・ド・リヨン... 著者は1964年生まれのジャズミュージシャンで音楽学者。 図版も多く、参考書誌や年表、ディスコグラフィも充実。 カヴァーは、すでにこの世を去ったベーシストの若き日の姿。 ジャン=フランソワ・ジェニー=クラーク(1998年病没)と ベブ・ゲラン(1980年自殺)。1966年、ギイ・ル・ケレク撮影。 Outre Mesure は音楽専門出版社で、 デレク・ベイリー『インプロヴィゼーション』仏語版も出してます。 |
再びメトロに乗って、びんぼーたわーに着いたときにはすっかり日が暮れていました。フランクとローに「ルイユ・デュ・シランス行ったよ」と報告。ローが「あのお店のムッシューもマダムも、とっても優しくていい方たちでしょ!」と凄く嬉しそう(そんなローも、まるで優しさと思いやりが結婚して生まれたようなピュアで優しい女の子なのですが)。私はフランクがDICE誌の連載で紹介したり、雑誌に出ていて気になっていたCDをまとめてゲットしました。
Shunatao / SLOW ROCK MOUNTAINS Amanita フランクがイチオシのバスク地方出身ロックバンド。 ヴォーカルがなんだか昔のデヴィッド・ボウイ風。 『DICE 骰子』32号のフランクの連載でレーベルAmanitaを紹介していて このディスクのことも最後にちょっと出てきます。 |
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Shunatao / AUTRETRAT Anna Luif - Noel Akchote / THE STORY OF BALL PAUL Amanita とはいっても2枚組じゃなくて、1枚のCDに2アーティストを一緒に収録。 Anna Luifは、ティエリー・ジュスの映画『ノエルの一日』で、アクショテの 彼女役だった。『Buenaventura Durruti』でもいっしょに1曲歌ってる。 ノエルってほんとは筋金入りのジャズ育ちらしいけど、 このアルバムはジャズ色もインプロ色さえもほとんどなし。ロックです。 |
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Erik M / ZYGOSIS Sonoris, SON 06 これさ。帰ってきたら東京のレコードやさんにも入ってたの。 でも、あっという間に売れちゃったみたい。 わたしもMetamkineのCDシングルのほう買い損ねた。シマッタ。 |
そろそろコンサート会場に向かわなければなりません。びんぼーたわーの最寄り駅ルドリュ・ロラン Ledru Rollin (バスティーユの隣り)から、会場のあるアルフォールヴィルまでは乗り換えなし、駅までは20分ほどで着くようです。 (つづく)