ソン・ディヴェール・フェスティヴァル Festival Sons d'Hiver は、パリに接するヴァル・ド・マルヌ県 Val-de-Marne で毎年1月上旬から2月上旬にかけて開催されています。フリー・ジャズ、ポスト・フリー・ジャズ系から現代音楽、ファビュルー・トロヴァドールのようにどっちかつーとポップに分類される(のかな?)アーティストまで選ばれていて(今年の出演者で一番有名なのはゲイリー・ピーコックとラルフ・タウナーかなー)、1月に長期滞在できるなら通い詰めたくなる面白いプログラム。オープニングの7日は、レジス・ユビー&ヴァンサン・クルトワ、ディディエ・プティ、マヤ・ホンバーガー&バリー・ガイという弦楽器奏者特集で、しかも会場が教会。ポルタル様とルイのコンサートとバッティングさえしてなかったら絶対行きたかった...(涙)あと、エリック・Mとカトリーヌ・ジョニオーのデュオも...(涙)
でも、ドミニクやミッシェルは「今年のソン・ディヴェールはいまいちだよなー」なんて言ってた。その代わりというか、一時「商業主義に堕ちた」なんて悪口も言われたバンリュー・ブルーのプログラムが、今年はわりと評判いいみたい。
エコール・ヴェテリネール・ド・メゾン・アルフォール駅 Ecole veterinaire de Maisons-Alfort (長い^^;)を降りて、出発前に友人が郵送してくれたアルフォールヴィル Alfortville の地図とにらめっこ。友人には会場で会えるはず。
駅から10分くらい歩いたでしょうか、会場のTheatre-Studioの前につきました。早めに着くようにしたので、当然ながら私が一番のり(^^;)びくびくしながらドアを開けて、関係者の方にたずねたら、「会場の準備がまだですけど、どうぞ」と中に入れてくれました。
テアトル・ステュディオは、名前の通りふだんは演劇の上演に使われているスペース。座席が段々になっていて小劇場っぽい。
後ろのベンチにぼんやり座っていたら、土曜に会ったパトリックがやってきて、声をかけてくれました。「きっと早く会場に来てると思ったよ」って行動を読まれている?(^^;)
パトリックと雑談してるうちにだんだんお客さんが増えてきたので、そろそろ席に着こうかと前に出てきたら、地図を送ってくれたジャン=リュックさんが一番前の席に座っていました。
ジャン=リュックさんは地元アルフォールヴィルにお住まい。ご職業は音楽関係ではないのですが、エヴァン・パーカーはじめインプロ系の音楽が大好きで、また日本にお友達がいて時々日本にいらしてるということもあるのでしょうが、それにしたって日本の音楽に詳しすぎ!だって篠田昌巳さんや金野Onnyk吉晃さんの名前まで出てくるんだもん!
去年るいるいサイトを見てメールをくれたジャン=リュックさんは、たまたま昨年秋に日本に滞在したので、大阪で斎藤徹さんとミッシェルのライヴ、神戸でフェスティヴァル・ビヨンド・イノセンスをしっかり堪能したとのこと(東京にいらした折りには吉祥寺で黒田京子さんの出演するライヴに行き、お会いすることができたのでした)。
いつのまにか、開演前に会場は満員になっていました。私達の陣取った最前列の席の前に空いていたスペースも、今はぎっしり人が座っています。見回すと、わりとご年輩の方もいれば、後半のステージが目当てかしら風クラブ系おしゃれなおにいちゃん達まで、やっぱり客層がいろいろで、こういうのはほんとに風通しよくていいなあ、と思います。
きょうのステージは前半がブノワ・デルベックの新しいクィンテット。後半は、ブノワとスティーヴ・アルグエルが組んでいるエレクトロニクス系のユニット「レ・ザンビトロニクス」というプログラム。
前半のステージにはピアノだけが置いてあって(でもブノワだからいっぱいプリペアしてあるんだけど)、後半に対して完全にアコースティックで行こうとしているようです。
このコンサートはクィンテットのCD発売を控えて行われたものでしたが、そのCDがリリースされて、もう東京では買えるようになりました。
Benoit Delbecq 5 / PURSUIT Songlines, SGL 1529-2 Benoit Delbecq - piano Francois Houle - clarinet Michael Moore - clarinet, bass clarinet & alto sax Jean-Jacques Avenel - bass Steve Arguelles - drums & electronics Guest: Marc Ducret - guitar |
ブノワとスティーヴに、すばらしいカナダのクラリネット・プレーヤーであるフランソワ・ウール、オランダからClusone Trio のマイケル・ムーア、そして大御所ジャン=ジャック・アヴネル。まだ新しくて、フランスでもそれほどステージをやっていなかったらしいこのクィンテットを生で観られたことは、今回の短い旅の大きな幸運のひとつでした。もう〜、すばらしいんです。私の口では説明できないので、どうかディスクを聴いてみてくださいと言いたくなってしまうのですが、はあ〜。あの、微妙な関節の外れ/収まり具合。不思議なハーモニー。いつもながら柔らかくて繊細なブノワのピアノとプリペアド・ピアノ。ぬうっと背の高いマイケル・ムーアと、予想外にごついおにいちゃんだった(^^;)フランソワ・ウールの、アイディアいっぱいの豊かなサウンド、2人の管の絡み合い方。絶品のドラム。そしてそして、地味〜なんだけど、すごおく渋くてかっこいい、ジャン=ジャック・アヴネルのベース。なんだかなんだか、すごいものを聴いているぞーと思っているうちに終わってしまった。(^^;)いま、CDを聴いても、なんて素晴らしいんだー、と思うけど、コンサートで何が足りなかったかといったら、マルク・デュクレがいなかったことだけだよ!(といっても、CDに1曲デュクレが参加してるってこと知らなかったんだけどさ^^;)。
ステージが終わると、会場中が大拍手。新クィンテットは大成功のようです。
休憩をはさんで次はアンビロトニクス。こちらでは、カトリーヌの来日公演のときみたいにブノワがエレピやシンセやサンプラーをいっぱい出してきました。
Arguelles /Delbecq's Ambirtonix Futuring Req & Ashley Slater
invite Olivier Cadiot
Req と Ashley Slater (Dr.Bone) は、ブライトンのトリップ・ホップ系アーティストだそうで(よくわかっていない^^;)レックはお皿まわし、アシュレイはその場でミキシングをしながらなぜかトロンボーンも吹く(^^;)、そのトロンボーンがけっこうカッコいいという不思議なおにいちゃん。スティーヴもドラムをたたきつつサンプラーをいじったりします。
1曲目はブノワひとりの演奏で、98年にブノワの4tetと一緒に来日した詩人のオリヴィエ・カディオ氏が自作テキストを朗読します。あのときのステージを観た方はご記憶であろう、カディオ氏のちょー早口で読まれるテキストは、いろいろノンセンスなネタがちりばめられているようで、周りのお客さん達はみな大笑い。私ひとり取り残されました(;_;)
このあとはずっと、ブノワ、スティーヴ、レック、アシュレイの4人で延々とエレクトロニックなサウンドが展開されるわけで、私はあんまりテクノ方面知らないけど、もーブノワたちのセンスは大好き、っていうのは声を大にして言えちゃう。もろジャズやってるときもそうなんだけど、2人の出す音はすごくやわらかい。でも軟弱ってことじゃない。とても繊細にコントロールされている。そしてとても気持ちよい。いつまでもいつまでも聴いていたいし、はやくディスクも出してほしいと思います。
こちらも、終了すると大きな拍手と歓声が起こりました。ああ、自分と同世代(ブノワと私は同い年。というか正確には私のほうが3カ月あまりお姉さんだったりする...^^;)にこんな素敵な、才能にあふれたミュージシャンがいるって、なんて嬉しいことなのだろう。
コンサートが終わったあと、ブノワとスティーヴに再会(*^^*)いまリサイクラーズをやっているベーシストのクリストフ・マンクもいたのだけど、カトリーヌの来日公演のときにはモシャモシャの鳥の巣ヘアだったのがすっきり短髪にしちゃっててびっくり!
あと、会場にはNATOレーベルのジャン・ロシャールとか、ロックミュージシャンみたいな長髪のエキセントリックなお兄さんがいると思ったらJazz Magazineのジャーナリストだったとか、いろんな人が来ていたらしいです。
ジャン=ジャック・アヴネルはブノワとスティーヴにとって憧れのミュージシャンのひとりのようで、次々「一緒に演奏できて光栄です」みたいに挨拶に行っていたのが印象的でした。
「せっかくだから、僕らの車で一緒に帰ろうよ。マイケル達がバスティーユのホテルに泊まってるから、バスティーユのカフェで打ち上げするんだ」
とブノワに誘われて、わーいわーい(*^^*)と便乗することにしました。ジャン=ジャック・アヴネルとフランソワ・ウールは先に帰ったらしく、深夜営業のカフェに集まったのはアンビトロニクス組とマイケル・ムーア、オリヴィエ・カディオ、オランダでコンサートのオーガナイズなどをやっているという人(後からメールが来て、オランダのジャズサイトhttp://www.jazzinmotion.nl/を教えてもらった)、ブノワの超美人の彼女(*^^*)ほかお友達関係でありました。
「ねえねえぶのわ、日曜に偶然アンナ・カリーナに会ったんだよ」
「へーっ!すごいじゃん。カトリーヌが彼女のアルバムをプロデュースしたのは知ってる?あのアルバム、フランソワ・メルヴィル(ルイ・トリオのドラマー)が参加してるんだよ。たまたまその仕事が入ったってことらしいけど」
えー!これはますます楽しみだー。
「去年、カトリーヌと一緒にコンサートをやってた頃、いきなり『明日のステージにアンナ・カリーナが出ることになったよ』って言われてさ。リハーサルもしてない状態だし、すごく心配だったんだ。でも、当日は彼女が体調を崩して、けっきょくステージに出る話はキャンセルになったんだけどね」
だって。カトリーヌはフランス・ツアーが始まったようだけど、このツアーにはリサイクラーズは同行してるのかなあ。
夜は更け、いつのまにか午前2時を回っていました。残念ながら打ち上げもお開きに。バスティーユで別れを惜しみながら解散し、私は、たまたま泊まっているところが私の友人宅の近所だというスティーヴと、タクシーで途中まで一緒に帰りました。
スティーヴはPlushという自分のレーベル(エレクトロニクス系らしい)を準備していて、音源はスティーヴのとかブノワのとかCD3枚分用意できていて、アルバムジャケットのデザインとかに取りかかっている段階でした。ということは、そろそろリリースできる時期なのかなー?すごく面白そうで、わくわくです。
スティーヴと再会を約束しつつ先にタクシーを降りて、抜き足差し足で友人宅に戻り、こっそりと荷物をまとめて床についたときには午前3時をまわっていました。
とりあえず寝たけど朝は7時起床。朝食をとり旅支度をし、列車でシャルル・ドゴール空港に向かい、10時過ぎには無事に搭乗手続きを済ませ、昼過ぎ出発の飛行機に乗ってランチを済ませたとたん...次の食事が運ばれてくるまで、爆睡(^^;)
おかげでひどい時差ボケは免れた私は、13日朝9時成田到着後そのまま成田エクスプレスで東京に戻ると、大荷物を持ったまま昼からしっかり出勤し、日本の日常生活に戻るリハビリを始めたのでありました。
だけどだけど、フランスでのたくさんの出会いは、想い出と同時に、「次にまたきっと...」の希望となって、私を励ましてくれるのです。みんなみんな、ほんとうにありがとう。
(続編の書ける日を待ちながら、とりあえずおわり)