オーディトリウムは、TGVが発着するパール・デュー駅 Part Dieu のそばにあります。市立の文化会館みたいな感じの施設で、ふだんはクラシックのコンサートが多く行われているようです。
ちょうど開場時間の頃に着いたのだけど、1階ロビーがすでにたくさんの人でごったがえしている。中に入れば、オーケストラも演奏できるステージに、2階のバルコニー席もたっぷりある立派なホールなのですが、その席がどんどん埋まっていく!最終的には、ぽつりぽつりと空席はあるものの、ほぼ満員となってしまいました。客層は、大学生くらいのコたちから年輩のご夫婦まで、各世代まんべんなく来ているという印象。
ジャンと彼のガールフレンドと私は、2階右手バルコニー席の最前列に陣取りました。ちょうどステージを真横から見る位置です。

このコンサートは、リヨンの近くにあるヴィエンヌ Vienne で毎夏行われている大きなジャズフェスティバルのオーガナイザーが企画しているシリーズで、第1回(昨年秋)に出演したのはレスター・ボウイでした(彼の最後のコンサートだった?)。
今回はデュオを2組、ということで、前半にミッシェル・ポルタルとルイ、後半にアル・ディメオラとディノ・サルーシが演奏することになっています。
場内が少し暗くなると、最初にオーガナイザーが登場して挨拶。さあ、コンサートがはじまる!
前半の主役が出てきました。ポルタル様とルイ、黒の上下で揃えています。ポルタル様は去年の来日公演と同じような黒いシャツ。ルイはTシャツの上にジャケット。ステージに向かって左にルイ、右にポルタルが立つ(私たちの席からは手前にポルタルがいるようになりました)。大拍手でふたりを迎える客席。
譜面を用意した二人がバスクラを手にして、演奏が始まりました。ああ、おなじみのメロディ。ポルタルの「Mozambique」です。夢にまで見た「ミッシェル・ポルタルとルイ・スクラヴィス」のデュオ。フランスに住んでいれば何度か見るチャンスがあるのだろうけど、日本では想像するしかなかったステージが、いま目の前で繰り広げられているのです。そして、のっけから、なんて深い豊かなバスクラの音色!催眠術にかかったように、ステージに見入り、音に聴き入るしかできなくなってしまいます。もう、昼間体調が良くなかったことなんてすっかり忘れてる私。
「Mozambique」が終わってしまいました。すると、会場中が割れんばかりの大拍手と歓声!満足げに顔を見合わせる二人。真横からでも、ポルタル様がとても嬉しそう、ご機嫌なのがよくわかります。
そうこうしているうちにプログラムは進んでいく。曲目は主にポルタルの作品(最新作Dockingsの収録曲もあった)が選ばれており(すぐルイの曲だってわかるのはなかったような気がする...)、各曲とも、今回のデュオ用にかなりきちんとアレンジを施したようで、バスクラ、クラ、ソプラノサックスと互いに持ち替えつつ、二人ともしっかり譜面を見ながら演奏し、ときどきインプロ部分を交えています。ルイがバスクラの吹き口をマイクに向けて指パタパタ奏法(^^;ホントはなんて言うんだ?)で、1曲のほとんどを演奏してしまうこともありました。
「Little Tango」からポルタルがバンドネオンをとりあげます。はじめは例のちょっとピアソラ風のフレーズが続き...いつのまにか演奏がうんとフリーになって、ルイのクラリネットと丁々発止のかけあいが始まります。ここでいきなりポルタル、バンドネオンを持ったまま「ワッハッハッハッハッハッ」と高笑い!思わず会場からも笑いが起こります。きゃーなんておちゃめでかわいいポルタル様!ルイもマイクに口を近づけスキャットで答える。お互いに、たくさんの手持ちカードを出し合っては、お互いの反応を楽しんでいる。年の差を超えた長い友情とライバル意識と遊び心が、圧倒的な演奏技術の上で自由自在に踊っている、という感じ...すばらしいダンサーの舞台を見ているのと同じような、感動。
とかなんとかいってるうちに、ステージが終わっちゃった!正味1時間弱しか演奏してないのにい!並んで挨拶する二人に注がれる、大きな大きな拍手、歓声。二人がステージを去っても、観客が納得するはずがない。アンコールを求める手拍子が、いつまでも続き、それに応えて二人がまたステージに出てくると、一層大きな拍手が起こります。
けっきょくデュオは2度のアンコールに応えました。さらに3度目を求める大きな拍手も続いたのだけど、会場の照明が明るくなって休憩時間が始まってしまい、皆やっとあきらめたのでした。でも、ルイたちが楽器を片づけにステージに戻ってくると、また拍手が起こっちゃったりして(^^;)
「ほら、ミキコ、ルイに声をかけなよ!」とジャンにあおられて思わず「ルイ〜〜!」とバルコニーから呼んだのだけど、ルイの耳には届かず...ところが、再びステージに出てきたところをこんどはジャンが大きな声で呼んでくれて、ルイがようやくこちらに気づいてくれました。
「Salut----!!!」
ルイがにっこりして「Ca va ?」キャー!私がいることに全然驚いてません!(^^;)ともかくリヨンに来ますというメッセージがちゃんと伝わっていたのは確かなのだわ。
休憩時間にジャンやガールフレンドのお友達を紹介してもらったりして、次はアル・ディメオラとディノ・サルーシのデュオ...
しかし。前半で集中力をすっかり使い果していた私...すみません。コンサートの印象がほとんど残っていないのです。ディノ・サルーシのバンドネオンの音色は宝石のように美しくて、あの音を聴くとポルタル様のバンドネオンは決してすごく上手というわけじゃないのねと気づいたりするのですが(^^;)うーん。申し訳ない。こちらも、観客はもちろん大受けだったのだけど...
コンサートは全て終了しました。ルイはまだ会場にいるのかしら。楽屋にいけば会わせてもらえるのかしら。
ところが、会場スタッフの方に聞いて、ルイもポルタル様もすでに会場を去ってしまったことが発覚!があああん。リヨンまで来て、ルイと一言ことばを交わしただけで帰ることになってしまうのか?!明日はパリに出発しちゃうんだよお。
ほとんど泣き出しそうになっている私に、救いの手がさしのべられました。
「ルイの奥さんが来ているぞ!」とジャンの声。なんと、ジャンのガールフレンドの友達が、ルイの奥様の友達と友達だったのです(ややこし^^;)。地元リヨンだからこそ起こった奇遇でした。
「あなたがルイのサイトを作ってくださってるの?ルイから話は聞いてるわよお。家にはパソコンがないので見たことはないんだけど、なんでもディスコグラフィがとても充実してるんですってね?」
「はいー、いえ、そのー、そんなでもないですぅぅ(しどろもどろ)」
うわー緊張した(^^;)奥様は「もしや姉さん女房?」とも思われるような芯の強そうな女性でしたが、とても気さくな方でもありました。
あとはジャンが彼女と話をして、ルイは翌日も家にいるので、午前中に電話を入れる、ということになりました。
なにはともあれ、このままルイに会えずにリヨンを去る、というトホホな事態だけは避けることができそうです。(つづく)