「...このアルバムは本当にすごい、そして僕が知っているスクラヴィスの音楽のどれにも似ていないんだ!」
このホームページが縁でE-mail文通が始まったフランス人のS.T.君からクリスマスの前に届いたメッセージ。そのアルバム「Danses et autres scènes」が10日、エアメールで届きました(そう、けっきょく待ちきれなくて通販に走ってしまったのです)。
詳細はディスコグラフィにデータをアップしたのでそちらもご覧いただきたいのですが、ルイがこれまでに手がけた舞台・映画音楽を集成したアルバム。といっても単なる過去の録音を集めたものではなく、CD収録にあたってはオリジナル録音を使用しつつもかなり手を加えている様子。
29曲収録、演奏時間でみると1分強の短いものが目立ちますが、2-3曲でひとつの作品を形作っているものが多く、「こまぎれ」という印象はありません。
参加ミュージシャンはルイの様々なグループでおなじみの顔ぶれから、たぶん録音では他に共演作はないと思われる(でもステージでの共演はけっこう多いんだろうな)リシャール・ガリアーノ他のアコーディオン奏者、チェロのヴァンサン・クルトワが目をひきます。
ルイは当然クラリネットとサックス、それからひさしぶりのフルートも演奏(ちょっとだけね)。演奏には参加していない曲もあり。
アルバムを手にとって最初に気づくのは、体操教師らしき男性が小さな子供をリフトしているセピア色の古びた写真の上にアルバムタイトルが繰り返される印象的なジャケットに掲げられた
「このアルバムを両親に捧げる」
という献辞。
そして収録曲は演劇と映画のために書かれたもので、「danses」というタイトルにもかかわらず、純粋なダンスのための作品が入っていない(コンテンポラリーダンスのMathilde Monnierと多くの仕事をし、実際に舞台に立っているのに)...
ルイはリヴレット掲載のコメントのなかで、アルバムの選曲・構成にあたって、ジャヴァ、ワルツ、ブーレ、タランテラ、タンゴ...と舞踊音楽をところどころに挟んだことを語っています。それはもちろん構成にめりはりをつけるためでもあるのだけれど、なによりもそれらの音楽が「自分が生まれて初めて耳にし、聴き入った最初のメロディだから。それらのメロディが、音楽という喜びに僕を導いてくれた」。
それらダンスの名前をもつ小曲には「ジャズ」的なアレンジはほとんど加えられず、伝統的なスタイルを守ってノスタルジックな雰囲気を漂わせています。
子供の頃、両親が聴き、あるいは部屋で踊っていたのだろう古いワルツやタンゴのレコードの記憶。音楽との最初の出会い。
映画あるいは演劇のために、映画監督や演出家に求められ、あらかじめ脚本や原作といった限定された枠組みを与えられて書かれる音楽のなかに、普段ストレートには出さない個人的な音楽体験が込められている。そこに「両親に捧げる」という献辞の意味もたちあらわれてきます(実はジャケットの写真にも秘密があります。でも今は内緒)。
もうひとつ興味深いのは、ルイがこれまでに出したアルバム収録曲の「原型」がいくつか聴けること。「Carnet de Routes」の"Les Petits Lits Blancs"に発展することになる"Lits Blancs"(これは当初、写真家ギイ・ル・ケレックのスペクタクルのために書かれ、のちジャン=ルイ・マルティネッリの舞台音楽となった)。そして「Sarajevo (Suite)」「Ceux qui veillent la nuit」にそれぞれ収録された"Ceux qui veillent la nuit"。
ことに後者はBruno Chevillonがウード風に弾くベースが強烈な印象を残す、イスラム風のメロディを持つ曲だけれども、もともとリヨンの劇団
IMAGE AIGUËの"NITS"という作品のために書かれたことが初めて分かりました(今回はピファりんのヴァイオリンも加わったトリオで、これがまた素晴らしい。シュヴィヨンほんとに凄くてぞくぞくする)。
それから「サラエヴォ組曲」収録ヴァージョンの冒頭に聴こえるサイレンのような響きは、本作の最後に収められた"Une Tristesse Infinie"にも使われています。これも同劇団の"ADAMA"という作品に使われた曲。
ところで、ホームページのインフォメーションによると、この劇団の俳優はほとんどが10代、あるいはもっと小さな子供たちなのですが、かつてイスラエルでそれぞれの居住区に暮らすユダヤ人とパレスチナ人の子供達がリヨンで同じ舞台に立つという公演を行ったそうで、そのとき上演された作品がこの"ADAMA"なのだそうです。
『サラエヴォ組曲』に提供する曲の冒頭に"ADAMA"のためにつくった音を重ねたことを知り、"Ceux qui veillent la nuit"を聴きかえしてみよう...
ともかく「Danses et autres scènes」はとても「サントラ集」と一言では片づけられない重要な作品であり、今までのルイがつくってきた音楽の「どれにも似ていない」アルバムです。そして、ほんとうに美しい。
でも、だからこそこの音楽が使われた映画や舞台を、見ることができたらなあとも思うのだけど...(そういえばアルバムには入ってないけど、明日とあさってはMathilde Monnierの"Chinoiserie"がフランスで再演されるので、ルイも舞台に立つのよねえー...
ああああああ、観たい観たい観たいよー)
日本へはもうすぐ入荷するそうです。今月中にはお店に並ぶかな。
たくさんのひとがこのアルバムを聴いて、気に入ってくれたらいいなと思います。