ブノワ・デルベック&イニアテュス(Jerome Rousseaux)のインタヴュー、第一回です。訳はかなりごまかした部分もありますので信用しないように。
しかし、私はブノワ・デルベックと同い年なんですが、インタヴュー読んでると、ほんとに同世代だわーと感じます。「パティ・スミスやボウイが好きなお姉ちゃんがいて」なんて他人とは思えんわ(^^;)
LES PREMIERS SOUVENIR MUSICAUX
音楽に関する最初の記憶について
- 音楽に関する最初の記憶は?
Benoit: 教会。両親と一緒に出かけたミサ。それが、敬虔なカトリック信者の家庭に生まれた僕の音楽との最初の関わりだった。それから、父がクラシックもジャズもよく聴いていた。
Jerome: 僕の最初の記憶は、どちらかというとテレビの子供番組の音楽かな。最初に聴いたレコードは両親が持っていたもの。ジャック・ブレルの「老人たち」のシングルだった。LPで最初に聴いたのはピンク・フロイドの"Relics" (邦題「ピンク・フロイドの道」?)、兄が持っていたんだ。兄がいたおかげで、音楽を知る時間が凄く増えたね。
Benoit: 僕の場合も似ている。僕には姉がいて、最初に聴いたLPはピンク・フロイドの「おせっかい」だったね。姉はパティ・スミスとかデヴィッド・ボウイも聴いていた。
Jerome: 僕の両親も敬虔なカトリック信者だったから、ミサには行ったけど音楽は良くなかったな...両親は僕にピアノを習わせた。8歳か9歳で始めたんだ。ピアノは好きだったな。母がピアノをやっていたし、兄もやっぱり8、9歳でピアノを始めたんだけど、両親が見つけてきたのが年寄りの先生で、なんともトラディッショナルな教え方だった。で、1〜2年したらその先生、死んじゃったんだよ。それで兄はうんざりして「ピアノなんかやーめた」ってさ。
それで両親は「下の子まで同じ目に合わせてはいけない。この子は本当に音楽が好きなようだから、若い先生を探そう」と話し合い、若い女の先生を見つけてきた。僕は彼女に夢中になったよ。彼女のことばかり夢見て、彼女を喜ばせたくて、「よくできました。ジェローム、がんばったわね」と言ってもらいたくて、僕は狂ったように練習した。毎晩7時
から夕食の時間までピアノを弾いた。誰からも無理強いされたんじゃない、練習が好きだったからやってたんだ。先生の喜ぶ顔が見たくて、面倒くさいソルフェージュの練習もしたよ。先生が感じのいいひとで、若くて、優しいっていうのはとても重要なことだったな。
Benoit:僕の姉と両親はピアノを弾いていた。両親はとある合唱団で知り合ったんだ。兄もピアノを弾いていたけど、やめてしまった。家族の中でもう音楽をやってないのは兄だけだね。姉はプロのミュージシャンだし、妹はアルトサックスをやってる。
僕のピアノの先生は近所に住んでいた。でも、ただ近所に住んでいただけじゃないよ。彼女はアルフレッド・コルト (Alfred Cortot、1940-50年代の有名なピアニスト)の弟子だったんだ。レッスンは僕にとっては恐怖だったよ。ピアノの下にバラフォン(アフリカの木琴)が置いてあって、僕はピアノよりバラフォンの方が弾いてみたかったね。壁には「アルクール・スタジオ」風の、ちょっと苦しげな顔のコルトのポートレイトがかかっていて、怖かったなあ。先生がしょっちゅうコルトの話をしてくれたのが印象に残っている。毎週火曜日のレッスンだった。
これが最初の音楽とのつきあい。それから教会のミサでオルガンを弾いたり、後になってドラムスもやったよ。その頃の神父さんがちょっとロックンロール入っててさ。「リズム・ミサ」っていうのをやってて、最後にはジャムセッションもしたんだ。ミサの間はドラムセットにカヴァーをかけて叩かなきゃいけなかったんだけどね。
その後、10歳から13歳までピアノは完全にやめていたが、ドラムスをやってる友達ができて、また始めた。ロック・バンドみたいなものを作ったんだ。ポリスのコピーをしたりね。僕はまだ声変わりしてなかったんで、カセットで録った声を低くしたりしていた。ピアノでギターみたいに弾けなくてウンザリしていた。あの手の音楽ってピアノが入ってなかったしね。
「3度」とか「5度」とかどんなものかというのを教えてくれたのは姉だった。姉にはいろいろ助けてもらったよ。それから15歳の頃、本当にジャズが好きになりだした。両親が留守の間に、モンクやアームストロングやデューク・エリントンのレコードをかけまくった。でも全然わからなかったね、僕の理解を超えていたんだ。その後、作曲をする友達と夢中でいろいろ作った。週末はいつも彼の家にいった。生まれて初めてリズムボックスTR303や、DXをさわった。僕は彼の曲をアレンジしたんだ。ドナルド・フェイゲン入ってる感じの、ちょっとジャジーなアレンジだった。
Jerome: 僕も同じようなことをしていた時代があったなあ。
- 最初に買ったレコードについて。
Jerome: ビートルズのシングル「レット・イット・ビー」だった。当時リリースしたばかりでね。兄から教えてもらったんだ。兄はもうレコードを何枚か持っていたね。僕は父と一緒にパリに行った。セバストポル大通りにあったFNACに行ったよ。土曜の午後だったっけ。僕は郊外のセーヌ・サン・ドゥニに住んでいたんで、列車に乗ってパリ東駅に着いた。
一種の冒険だったね。少年時代というと、昼食を食べてから出かけてパリに行って、FNACに行ってアナログ盤を買っていたっていうイメージがある。当時はまだレコードに記号がついてたんだ。"B"は29フラン、"Y"は31フランってね。冬の夕暮れどきの気分を思い出すなあ。僕らの家の前はすぐ線路だった。僕は2、3枚レコードが入ったFNACの袋を持っている。列車が家の前を通り過ぎるとき、まだ夕食が終わってないかどうか見てみて、大急ぎで帰るんだ。夕食が済むと、部屋に戻ってレコードを聴くのさ。
最初に、僕が「レット・イット・ビー」のシングルを買って来たとき、シングルしか買ってこなかったからって兄貴にさんざん罵られたよ。「なんでアルバム買ってこないんだよ、このバカ」って。兄っていうのはときどきそういう風に弟を嘲るものだけどね...
Benoit:僕が買ったのはローリング・ストーンズの「ブラック・アンド・ブルー」。姉はもうビートルズを聴いていた。ストーンズを買ったのは姉との取り決めだったんだ。僕はこっちを買うから姉さんはあっち、って調子。
Jerome: 兄とは、どっちが早くアルバムを買うか競争していた。どっちかが持っていて、どっちかが持ってないアルバムがあると、悔しいんだよね。その争いがあんまりエスカレートしたんで、世界を二つに分けることにした。兄はビートルズで、僕はストーンズって。当時は僕はビートルズの方が好きだったけど、ストーンズに興味を持ちはじめた。 アルバム「メインストリートのならず者」を偶然買ったんだ。これはもう僕が一番聴いたレコードだね、何千回も聴いてるよ。これを買ったのは、本当はビートルズのレコードが買いたかったのにその権利がないのが悔しかったからなんだ。でも何年かしたら、ストーンズの方が好きになってたね。
Benoit:「ブラック・アンド・ブルー」は一番聴いたレコードではないけれど、でも何度も聴いたね。しかも、自分で採譜して、レコードに合わせて一緒に弾こうとしたのはこれが初めてなんだ。ピアノ(ビリー・プレストン)が入っているのを聴いて、これで僕にもロックが弾ける!って思ったね。一番聴いたレコードはトーキング・ヘッズの「リメイン・イン・ライト」。あれは本当にショックだった。それに、これは姉の影響じゃなく自分で見つけたアルバムだったし。「これが自分の趣味だぜ」って感じだった。
Jerome: 「ブラック・アンド・ブルー」は僕にとっても初体験の思い出だね。つまり、兄と一緒に初めて行ったロック・コンサートなんだ。アバットワールでのストーンズ公演だった。16歳だったよ。会場のあるパンタンはそんなに遠くなかったから、兄が車を出して、ストーンズを見に行った。それで、二度と後戻りできなくなった。「シンガーになりたい!」って思ったんだ。一度決めたら、何が何でもやってやろうと思った。
Benoit:僕が初めて行ったコンサートはスーパートランプ。12歳のときで、友達のお母さんに連れていってもらった。「Crime of the Century」っていうアルバムがあってね。キーボードを使ってるのが魅力的でさ。姉がコードを書いてくれた。ジャケットに住所が書いてあったんで、無邪気に譜面がほしいという手紙を書いたら、ほんとに無料で送ってもらったんだ。そして僕は、姉に説明してもらっていたマイナーコードのことを理解できた。それから、ギタリストにコードを弾いてもらって勉強したけど、それはあんまりたくさんやらなかったな。というわけで、最初のコンサートがスーパートランプで12歳のとき。そのあと、ザッパ、トーキング・ヘッズ、ダイア・ストレイツなんかを見た。
- パンクを聴いていたことは?
Benoit: うん、クラッシュの「サンディニスタ」好きだったなあ。
Jerome: クラッシュは4回見たよ。
Benoit: 僕は1回。前座がザ・ビートでさ。
Jerome: ああ、ザ・ビートが出たときのも見た。
Benoit:それ、モガドールでやったときだよ。同じコンサートにいたんだね。
Jerome: パレ・デ・スポールのときは怖かった。パンクスが円陣を組んでいて、ステージの真ん前にぽっかり空間があいていたんだ。3人の野郎がそこを仕切っていて、誰も近寄れなかった。僕もびくびくしてたよ...クラッシュはパンタンでも見たな。
Benoit: あと、モガドールでも見てるよ。ザ・ビートが出てたってことは。
Jerome: ザ・ビートは良かったねえ、サックスが入っててさ。
Benoit:コンサートの時はちょうど脚の筋を悪くしてて、脚が動かせなくて椅子にも座れなかった。踊りたくてしょうがなかったのにじっとしてたんだ。ちきしょう...
- ザ・ビートはどんな音楽を?
Jerome: ザ・ビートはスカっぽいグループ。サックスプレーヤーは年とってたね。ちょうどレゲエがロックに強い影響を与えはじめていた頃だ。凄くいいスカのグループだったよ。
(以下、次回に続く)