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Louis Sclavis(saxophones, clarinettes)/ Ernst Reijseger(violoncelle) Duo
1999年4月29日(木) Abbaye de l'Epau (Le Mans)
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ル・マンのフェスティバルには常連のスクラヴィスとライゼハーの登場。年格好も同じで、仲のいい同級生のような雰囲気。このデュオによるCD("ET ON NE PARLE PAS DU TEMPS"(FMP 66))は1994年ベルリンの「Summer Music」フェスティバルでの録音となっていますから、それからでももう5年コンビを組んでいるわけですよね。今回のも、このCDと同じことをやったのではぜんぜんありません。同じモチーフも使っていたかもしれないけど、ちょっと覚えてないです(^^ゞ音の印象は確かに同じなのですが、もっとずっと激しく(とくにスクラヴィス)、一方で茶目っ気を感じました。
そうなんです、CDの演奏にはどこか求道的な?印象を持ってたりしたんですが、何やらお茶目…。とくにライゼハー。写真で見る限り、チェロを抱えて演奏する変態的(すみません^^;)チェリストと思ってましたが、そうでした^^; パチンコの玉(みたいの)を横にしたチェロの弦の上で転がしてみたり、いろんなことをやっていました。
スクラヴィスも負けじと?バスクラの吹き口の部分を外して股間に挟み(やめなさいてば(^_^;;;)、本体に上から息を吹き込んでリズミカルな風のような音をたてたり、指で押さえる部分をぱかぱか鳴らしてメロディを奏でたり(これはお気に入りみたいですね)。クラリネットを使いこなしています。即興演奏家って、とにかく思いもかけない方法で楽器を100%以上使いこなすわけですね。
私は、前から4列目で、ほとんどステージかぶりつき状態で見ていたので、会場全体の音の様子は分かりませんでしたが、とにかくスクラヴィスの音は大きいです。怖いくらい。油が乗り切った演奏というものか…。ソロで「白い小さなベッド」の循環奏法によるモチーフが延々展開した時は、客席から喝采があがりました。後半にもなると、お客さんが何人も前の方にやってきて、床に座り込んで熱心に見入っていました。
最後の一曲では、2人が掛け合いで演奏しながら、しまいにスクラヴィスがライゼハーに後ろから抱きついて、二人羽織のようなポーズを決めておしまい!でした。なかなか芝居っけもあるステージでした。
アンコール1曲。2人はこそこそ話しながら出て来たかと思うと、ステージの端に腰をかけて足をぶらぶらさせながら、なにやら牧歌的な演奏を始めました。だんだんヘンになっていくんですけど^^; クラリネットはともかく、チェロをあの姿勢で(ちゃんと弓弾き)よく弾けるもんだなー、と思いました。なんだか学生時代に帰った友達2人が遊んでいるような楽しい雰囲気になって、お客さんの笑いと歓声を受けながら終了しました。
…そういえば、最近発売されたイタリアの雑誌MUSICA JAZZ(5月号)の付録CD(日本から送っていただきました。MIKIKOさんありがとう!)は、スクラヴィスの凄いライブ録音満載で、御本人も出色の出来と評価なさっているそうですが、その中にライゼハーとのデュオも入っていますよね。(冒頭、スクラヴィスが指ピアノかなんか弾いてるんでしょうか? そういうのはなかったなー。)
このCDに収録されている演奏は、どれもものすごくテンションが高くて本当に素晴らしいですね。スクラヴィスって、本当に休みなく公演旅行を続けていらっしゃいますが、比較的最近の各地のステージから、いいところを集めたようなCDなのでしょうね。
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Michel Portal(clarinettes, bandoneon)/ Richard Galliano(accordeon) Duo
1999年4月29日(木) Abbaye de l'Epau (Le Mans)
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はー。いよいよこの日最後のステージです。これが始まったのはもう夜中の11時頃。帰りはどうなるんだぁー。しかし、振り返ると会場はいつのまにか大入り満員、後ろの方まで人がいっぱい。
大変な盛り上がりでした! とにかくお客さんの反応がこの日で一番熱狂的。曲は、ポルタルの大編成のアルバム "Turbulence"(HMC 905186)にも入っている「Mozambic」から始まりましたが、2人だけの演奏だと逆に生々しく、迫力があるのなんの。その後は、ピアソラの曲などタンゴがほとんどで、心に沁みる曲の多かったせいもあるでしょうが、一曲終わるたび、客席からは長い長い拍手が止まりません。2人は顔を見合わせて会心の笑み(そして安堵の表情にも見える)を浮かべていました。スクラヴィスとまた違う、ある種抑えた哀切と激情を感じるような美しいクラリネット。バンドネオンを弾きながらのポルタル自身の声も、なんとも言えない…。
MC無しで、本編12曲(!)を一挙に演奏したあと、アンコールが4曲も続きました。バンドネオンとアコーディオンの泣けてしまうようなデュエットに始まり、「Oblivion」の痛切な感じさえするクラリネットの音も忘れられません。深夜というのに、いつまでもいつまでも拍手と口笛が止みませんでした。
私は、感動のあまり、翌日ル・マン市内のfnac(フランスの大手オーディオ/CD/ブックショップ)へ駆け込んで、"Blow up: Galliano/Portal"(FDM 36589-2)を購入してしまいました。演奏曲目は、だいたいこのアルバムの収録曲だったような気がします。
9月の日本公演、本当に楽しみですね。熱い拍手を!!!
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おまけ…4月29日(木) 修道院の楽屋に闖入するの巻^^;
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前回スクラヴィス追っかけツアーに来た時、フェスティバルのスタッフの方々にひとかたならぬお世話になってしまったのは書きましたが、今回も案の定見つかってしまい(日本人なんて私ひとりだからいやでも目立つ)、なんと、スクラヴィス出演日に楽屋お出入り自由の許可をいただいてしまいました。こんな嬉しいことはないはずですが、フランス語はできないし、話題も持ちあわせていませんから、ご遠慮していたんです(もったいないですね)。
ところが、終演は深夜0時過ぎで、最終バスはとっくに行ってるし、どうしてもタクシーの呼び方が分からない! その辺にいる若いバイトさんはぜんぜん把握してなくて、知らないと言う。日本だったら考えにくいと思いますが、こういう所が(自分のことは自分で何とかする)個人主義の世界なのだな、などと妙に感心しつつ、深夜0時半を回ろうという修道院の回りを走り回ったあげく、ついにあきらめて、楽屋裏にあるはずのスタッフ詰所を尋ねることにしました。
わー、すごい世界でした。ステージのすぐ後ろが、楽屋兼バーになっていたのです。ミュージシャンや関係者の皆さんが、送迎車を待ちながら歓談していました。パスカル・コンテ&JPドゥルーエのお二人が、にこにこしてこちらを見ていたり(珍しかったんでしょう^^;)、ポルタルさんが穏やかな笑みを浮かべながらすぐ前を(@_@)通り過ぎたり。(でたらめ仏語でいいから、日本のファンが首を長くして待っています!ってひとことお話しすればよかったです。)
いきなり話しかけてくる紳士とかいて、焦りました^^;
「ロンドンから来たの? スクラヴィスのファンクラブなんだって?」
いやべつにファンクラブではない、のですが^^;
「我々の音楽に興味を持ってくれてありがとう。私はここのディレクターだ。」
って、何かのパンフレットを置いてさっと行ってしまいました(かっこいい^^;)見ると、グルノーブル・ジャズ・フェスティバルのパンフでした。
こんな風に、各地のフェスティバル関係者が招かれて、親交を深める(コネクションを作る)場だったりもするようでした。私はわけ分からないので、ぼうぜんと(車を呼んでいただくまで)その場の雰囲気に飲まれていました。
外に出ると、晴れた夜空に大きな満月がぽっかり。暗い森を背景に、修道院の2階から明かりが浩々と漏れて、人々が笑いさんざめいている。なんだか映画のよう。
…ル・マンでは、たくさんの素晴らしい音楽とともに、目の覚めるような風景をたくさん見ました。地元の人々にとってはありふれた景色なのかもしれませんが、私にとっては、さまざまな出会いの背景として、生涯忘れがたい思い出となって記憶にとどまりそうです。