開場時間が近づき、ロビーに人が増えてくる。年輩のご夫婦もいれば、引率の先生に連れられてやってきた中学1年くらいの子ども達のグループもいて、その年齢層の広さに改めて感心する。
やがて、開場。はじめはてっきり全席自由だと思っていたのだが、チケットに書いてある数字が座席番号だと気づき、あわてて会場スタッフに場所を教えてもらう。当日券なのに、中央ブロックの比較的前の列がとれていた。会場はほとんど満員になったのに、一人だったのが幸いしたのか。
きょうのコンサートのタイトルは「Carte Blanche a Violoncelle」。2日連続で、2人ずつ計4人のチェリストを中心にしたコンサート。1日目のきょうは、レイズグルとルイのデュオ、それからヴァンサン・セーガル Vincent Segal という若手チェリストとドラマーのシリル・アテフ Cyril Atef のデュオ「ブンチェロ Bumcello」。ちなみに翌日はディディエ・プティ Didier Petit とカナダ在住のEric Longsworthが予定されていた。2日ともアコースティック・チェロ奏者とエレクトリック・チェロ奏者をひとりずつ、というプログラム。
会場が暗くなり、ステージにはエルンスト・レイズグルとルイが登場。2人とも黒っぽい服。レイズグルは髪を伸ばしていて、それがボサボサで、去年横浜で観たときより「変なヒト」度がグレードアップしている(^^;)このひとがチェロを持つとチェロが小さく見えまーす。
いつかきっと観たいと思っていたデュオが、目の前で演奏を始めた。
ルイのバスクラの音色。どこまでもどこまでも柔らかい。しばらく聴き惚れる。
レイズグルがアルコを使ったり指弾きして繰り出すチェロの音色も変幻自在。
しかし、次第にCDだけではわからなかったことが見えてくる。2人の演奏は、パフォーマンスとしてもとても面白いのだ。FMPから出ている「et on ne parle pas du temps」は、確か2人のデュオ初共演の録音だったと思うが、そのせいもあるのか、聴いたときの印象はかなりシリアスだった。でも、場数を踏んできたデュオはすっかりリラックスしていて、だんだんお互いにイタズラを仕掛けるような雰囲気になってくる。
レイズグルは、お馴染みの「チェロでギターの構え」は当然のこと、アルコで背中をかきながらギーギー弦を鳴らしてみたり、ミネラルウォーターを一口飲んではため息をつき、しまいにはご丁寧にゲップまでやってみせた(-_-;)。
ルイは、クラリネットとソプラノサックスを置いた台の上の、プラスチック製使い捨てコップを手にとって、マイクの前でクシャクシャにして音をたてる。ルイがポケットからお札(なんのお札かわからなかった。ユーロじゃなさそうだったなあ)を取り出して、バスクラの口に押し込むと、レイズグルがそのお札をアルコで取ろうとしたり、手をのばして取ったお札を自分のポケットに入れてしまったり(最後にはルイが取り戻していたと思うが^^;)。
2人がそれぞれソロで演奏する場面もあったけど、レイズグルが弾いているときに楽器を片づけていたルイがさっきのコップでカサッと小さな音をたてたら、レイズグルが「シーッ!」と怒ってみせる。するとルイはますますコップをガサガサ言わせる・・・
客席から何度もクスクス笑いがもれる楽しい舞台は、最後にレイズグルのリードでカリプソ風?な明るいメロディを奏でながら2人が退場。わきおこる拍手の中、演奏を続けながら2人が舞台に戻ってきて、一層大きな拍手のなかで終わった。
アンコールに応えて再び登場した2人、挨拶を終えて直立したまま演奏に突入。レイズグルは首と肩でチェロのネックをちょいと押さえただけの、ぶらさげ状態で楽々とチェロを弾いてみせる(立ったままだから、当然チェロは床に着いてないのよ)。ルイもしまいには、バスクラを脚の間にはさんで、手を離して気をつけの姿勢のまま吹き出した。・・・(顔は似てないのに)いたずら兄弟みたいな2人は、演奏が終わるとニッコリ微笑み、満場の喝采を浴びながら舞台を去った。
休憩の後はBumcello。ヴァンサン・セーガルは、Urban Moodっていうジャズロックっぽいバンド(ギヨーム・オルティが参加してる)のCDで聴いたことがあった。シリル・アテフは、イヴ・ロベール・クィンテットの「L'ete」でカッコいいドラムスが印象に残っていた。しかし、2人のユニットのことは全く知らなかったし、もちろん生で観るのも初めて。さて、どんなステージになるのだろう。
舞台に出てきたのは、細いエレクトリック・チェロを抱えた、ジャン=ピエール・レオを真面目にしたような(^^;)、かちっとジャケットを着た好青年と、アフリカだかなんだかよくわからないコスチュームと帽子をかぶった、ひょろっとした長身のおにいちゃん。すでに見た目が好対照でおかしい。
演奏が始まった途端、巨大なミネラルウォーターの瓶を逆さに取り付けた妙なドラムセットでダンサブルなリズムを刻むシリル・アテフのドラムスに釘付け。この人、やっぱりただ者じゃない。その正確なこと、切れ味の鋭いこと、センスの良いこと!ヴァンサン・セーガルは、エレクトリック・チェロをアルコで弾いて現代音楽みたいなフレーズを出したかと思うと、エレキギターのようにノイジーな音を出したりしてカッコいいのだけど、んんん申し訳ない、今の私にはシリル・アテフの方が主役なの。
2人とも演奏しながら時々自分の音をちょこちょことサンプリングしてみたりする。その生演奏とサンプリングの混ぜ具合が気持ち良い(これはAmbitronixにも言える)。こんな立派なホールだと、聴いている方はかえってフラストレーションがたまってしまう。後ろのほうでえらく盛り上がっている様子なので振り返ると、立ち上がって踊っているのは、開場前に見かけた子ども達らしい。かわいい!
気持ちよいリズムに、時差ボケから抜け出していない私はついうたた寝してしまった瞬間もあったりしたが、Bumcello、すっごい気に入った。
コンサートが終わると、さっきのルイとレイズグルのデュオに負けないくらいの拍手。けっこう年齢が高いお客さんもいるのに、聴衆のレンジの広さを感じて、嬉しくなった。
ホールを出るとCDを売っていたので、Bumcelloを迷わずゲット。係の女性に楽屋に入れるかどうかたずねたが、無理そうだったのでまっすぐホテルに戻ることにする。11時を過ぎていたが通りは店は閉まっていても明るく、不安を感じずにホテルまで歩いて帰った。