ホテルでのんびりと朝食をとった後チェックアウトし、回り道しながらゆっくりと駅へ向かう。「禁煙してても吸いたいよー」のポスターを発見。でも、タバコおじさんキャラは同じだけど、顔は日本のCFほどには悪魔っぽくなかった。
昼過ぎにパリ到着。メトロを乗り継いで友達の家へ戻る。慌てないで済むようにカルネ(メトロの回数券)も買った。コツのいる玄関のカギを一度でクリア。もう昼食を済ませていた友達が、さっとパスタとサラダを用意してくれる。うまい。
テーブルの上に置いてあるル・モンドに大きくピエール・ブルデューの写真が載っているなあと思ったら、亡くなったと聞いておどろく。よく知らないけどなんかすごく活動的で元気な人だというイメージがあったのに。
今夜のソン・ディヴェールの会場は、ショワジー・ル・ロワ Choisy-Le-Roi という街にある、テアトル・ポール・エリュアールという劇場だ。街自体、行くのは初めて。メトロからRER(首都圏高速交通網、っていうのか?)に乗り換えて郊外に出ることになる。持っていたパリのメトロマップのエリアぎりぎりに駅が載っていて助かった。
フランスって、日本みたいな「乗り越し清算」の概念がないらしい。例えばパリは、メトロと、RERも市内の駅ならどこで降りても均一料金だけど、市外へ出るなら絶対ちゃんと目的地まで切符を買わないといけない。でないとそもそも降車駅の自動改札機を通り抜けられなくなるし(メトロは降りるときは切符はいらない)、もしも検札が来たときにちゃんと切符を持ってなかったら、高い追加料金を取られて偉く怒られるという。
それと、RERは日本でいう各駅停車と快速みたいな感じでいろんな列車があり、目指す駅に確実に停まる列車をしっかり確認しないと、方向は正しくても目的の駅をすっとばすとか、途中から枝分かれして他の方向に行ってしまったりと恐ろしいことになる。車内アナウンスなんてものは存在しないし(これは最新型車両を除くほとんどの市内メトロもそう)、RERでは駅の看板もホームのわかりにくい所に1つしかなかったりして、うっかり見逃すと乗り過ごしてしまう。
今回の旅ではソン・ディヴェールのおかげで何度もRERに乗ったけど、いつもすごく緊張して、ドアの近くの席で、窓の外をじっと見ていた。
ショワジー・ル・ロワ駅について、窓口の女の人に劇場の場所を教えてもらう。駅前がすでに暗くて静かなのですごく不安になる。自分の理解が正しいことを祈りつつ歩いていたら、言われたとおりに劇場の屋根が見えてきて胸をなでおろす。
劇場はけっこう広い。先に来ていた友人が最前列の座席をとっていてくれた。しかし最前列といっても、ステージ前が広く開いているのでかなり距離がある。遅れて来た特に若いお客さんが、前の床に座り始めた。
ステージには2段の台が置かれ、下手にピアノ、その隣にパーカッションのセット、中央にキーボード。段の上には2つのドラムセット。その他たくさんのマイクや椅子が並んでいる。今日のステージには25人を超えるミュージシャンが登場するはずだ。
開演時刻が近づいて振り向くと、座席はほぼ埋まっている。ステージ前のスペースにもずいぶん人が増えた(後で、チケットは完売だったことを知った)。
コンサートが始まる前に、主催者側のあいさつがあった。
私の理解した範囲では(^^;)、この劇場には普段はもっと座席が用意されているけれども、今夜は会場設営の都合で座席を減らしたことについての、おわびが伝えられた。普段は椅子が並んでいるらしいステージ前のスペースが広く空けられたのは、今夜の主役ベルナール・リュバの希望によるものだという。
主催者側のあいさつが終わって会場は一層暗くなり、ステージはほとんど真っ暗。
・・・すると、やがてステージの下手から、奇妙な2つの光が現れた。
2つの光は、どうやら大きな懐中電灯のようだが、なぜかステージ床から数十センチの高さを維持したまま、前にゆっくりと進んでいく。目が慣れてきて、ようやくわかった。ベルナール・リュバだ。リュバが、両脇に松葉杖を抱えて、ゆっくりゆっくりステージ中央に進んでいる。その松葉杖の中央部に、懐中電灯が固定されているのだった。
昨年11月、リュバは交通事故に遭い、命に別状はなかったものの大怪我をしたという話は聞いていた。そのときちょうどパリのブッフ・ド・ノール劇場でポルタル様とのデュオが予定されていて、急遽リュバの代役にダニエル・ユメールとアンディ・エムレが出演したそうだ。
彼の脚はまだ完治していない(もしかしたら今後ずっと杖が必要な生活になるのかもしれない)。でもリュバは、自分の負ったハンディともすっかり仲良くなっているかのようだった。
中央にしつらえたキーボードと椅子。リュバはよっこらしょと椅子に腰掛ける。のっそりとした髭面の彼は、森から出てきた大きなのんびりとした動物のようだ。マイクに向かい、あいさつ、というか、あいさつだったのがどんどん言葉遊びに変化し、リズムを持ち、音楽的になっていくのを私はぼーっと聴いている(理解できないのよ〜^^;)。周りの人達はリュバの放つ言葉にクスクス笑っている。
ステージに次から次へと登場するミュージシャンたち。ヴェテランも若手も、リュバの長いキャリアに関わってきた人達ばかりだ。2つのドラムセットの片方には、ルイの6tetにも参加していたフランシス・ラッシュ。もうひとりの若いドラマーは誰だろう(後で調べて、クリストフ・モニオやローラン・ドゥオールのグループにいるドゥニ・シャロルと確認した)。上手の前列にはブラスセクションが勢揃いする。サックスのフランソワ・コルヌルーやクリストフ・モニオ、トロンボーンのイヴ・ロベール、トランペットのジャン=リュック・カポッゾ。もっと若手のミュージシャンは、私には誰が誰だかわからない。後ろの段の上手には、リュバの率いるコンパニー・リュバの面々と思われる人達が控えている。あのおじさんはきっと、アンドレ・マンヴィエルだ。そうだ、今日はリュバ初体験で、しかもマンヴィエルの歌も初めて生で聴けるのだ。
下手にはアンリ・テクシェがベースを持ち、ギタリストはたぶんシルヴァン・リュックだろう。
ルイは白いTシャツにジーンズで、あれれ、アミアンで観たときより若返ったような(^^;)、でも、どことなく厳しい表情で立っている。