コンサートが始まった。
どんな風に始まったのだろう?リュバのキーボード・ソロが導入だったか?あのときは目を凝らし一音も聞き漏らすまいと耳を澄ませていたはずなのに、今となっては、めくるめく音の洪水と途方もないエネルギーの記憶ばかりが残っていて、細かいところが思い出せないのだ。なさけない。
前半は曲自体は2,3曲しかなかった。それも、みな骨組み程度が決まっているだけで、あとはミュージシャン達の即興に任されているようだった。タイトルを言った曲もある。「Les Seniors」という曲ががあった。「シニア」のこと、それも普通はスポーツ選手を指す。サッカー好きのリュバが自分たちのことを冗談めかしてそう言っているのだろうか?
後のほうでは、ゲストのフラメンコのミュージシャンによる、ギターとカンテも加わった。
そんななかでも特に印象に残っているのは、椅子に座ったまま悠然とオーケストラを仕切るリュバの姿。カリスマティックで、異様な迫力がある。
そして、ルイの姿。
私が日本で何度か観たルイ、2年前にポルタル様とのデュオで観たルイ、前日に観たばかりのアミアンのステージでのルイ。
そのどれにも、今ステージに立っているルイは似ていない。
厳しい表情で挑みかかるようにバスクラを吹く。何度も指笛を吹いて演奏をあおる。我慢できないといった様子で踊り出す。自分のパートがないときは台に腰掛けているけれど、手元にあったカウベルを激しく鳴らしたりする。
こんなワイルドなルイ、初めて観る・・・。
ふと、気づいた。私は今、自分がグループをコントロールする立場ではないルイ、「主役」ではないルイを、生まれて初めて観ているのだ。
しかも、20年に渡って友情と信頼を築いてきたベルナール・リュバの指揮のもとで、こんなに大勢の、さまざまな世代の、親しいミュージシャンに囲まれて。
これは、フランスでなければ実現できないプロジェクト。たとえ欧州であっても他の国では無理、まして日本ではあり得ない。私はたまたまその日にフランスに居合わせることができただけ。
愕然とした。私は今、絶対に日本では見ることのできないルイを見ている。
そして、満員の劇場に他にも日本人が来ているのかどうかは確かめようがないけれど、日本でこのコンサートの体験を語り合える人は、たぶん存在しないのだ。
演奏はたっぷり1時間半ほど続き、第1部が終わった。友人(といっても五十代の方)は、音楽そのものは昔ロンドン・コンポーザー・オーケストラがやっていたようなものに近くて、とても70年代的で、決して「新しい」ものではないね、と言う。ずっと昔から聴き続けている人にはそうなのかもしれない。でも、私にはこれが初めてのベルナール・リュバ体験で、しかも、30人近いミュージシャンがひとつのステージに上がるという、もうこの先二度と体験できないかもしれない、かけがえのないコンサートであり、それよりなにより、楽しいんだからいいじゃない!
このまま席についていると、後で後悔することになりそうな気がしてきて、座って休んでいる人達の合間をぬって、ステージに近いところに空間をみつけ、腰を下ろした。
ベルナール・リュバのピアノ・ソロから始まった第2部では、第1部の混沌としたパワーが、さらに形をなしてきた。ファンキーに、ダンサブルに。コンパニー・リュバの本領発揮だ。サックス組のフランソワ・コルヌルーとクリストフ・モニオがカッコいい。コルヌルーはケンカが強そうな^^;怖いおにいちゃん風で、モニオはエキセントリックな不思議な趣味のカッコしてるんだけど。
それから、ルイのものすごいバスクラリネット・ソロが聴けた。
1時間ほど熱演が続いたころだろうか。ステージにある「異変」が起こった。
いつのまにかドラマーのドゥニ・シャロルがドラムセットを離れ、前列のパーカッション・セットで演奏をしていたのだが、空いていたドラム・セットで、フランシス・ラッシュでもない別のドラマーが準備を始めている。
ダニエル・ユメールだ!
きょうこの日、他の場所で同じ時間に始まる別のコンサートで演奏していたはずのユメールが現れた。時間はかなり遅い。コンサートを終えてこの会場に駆けつけてきたとしか考えられない。ということは・・・?
あ!ブルーノ・シュヴィヨンが下手から飛び込んできて、上段のアンリ・テクシェの隣に入り、大急ぎでベースのチューニングをしている。そしたらそしたらそしたら、もうひとり現れるはず。私の目は、下手に釘付けになった。
・・・来た、来た、来た。
ポルタル様登場〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!
アルトサックスを持って、悠然とステージに現れたポルタル様、ご機嫌よさそうだ。歓声が上がる。思わず私も声をあげてしまう。当然のようにステージ中央の椅子に腰掛けたポルタル様は、演奏には入らず、しばらくじっと周りの演奏に耳を傾けている。が、それだけで充分な威圧のオーラが(^^;)発せられている。ただそこにいるだけで、すでに「主役は俺様」モードに突入しているのだ。
満を持した、というあたりで、ポルタル様がおもむろにサックスを構えた。
会場中を威圧する、長い長い長い高音が響き渡る。
圧倒されてしまう。
ルイの方に目をやると、終始ブラスセクションの中で一番目立つところにいたルイが、このときだけはステージの端にひっこんで、真剣な眼差しでポルタル様を見つめ、聴き入っていた。
曲が終わる。今までで一番大きな拍手。リュバが客席に背を向けて、ポルタル様の方を見る。
「Ah, le senior est arrive ! (シニアのご到着だ)」
楽しそうに笑っているポルタル様。
メンバーが全員揃ったオルケストラが最後の曲を始める。
リュバのヴォーカル・パーカッションとユメール、ラッシュ、シャロルの3人のドラマーの掛け合いに会場が沸き、マンヴィエルのスキャットが魔法のようにオルケストラにからみつき、リズムはますますダンサブルになり、客席に向かってシャロルが立ち上がれとあおり、とうとうステージ前の観客は立ち上がって踊りだした。一気に、コンサート会場はダンスホールになった。
アンコール、アンコールの大拍手に応えて、リュバがアコーディオンを構え、オルケストラはコンパニー・リュバ十八番のダンス・ナンバーを奏で、一層の大きな大きな拍手と歓声のなかで終了した。
ルイが私を見つけてくれた(わーい、前の方来ててよかった〜)。
「やあ、コンサートはどうだった?」
「凄いよかった。いっぱい踊ったよー。きのうのアミアンも、とっても良かったし。でも、エルンストに会えなくて残念だったけど。だってきのうのコンサートのことは、日本で彼に聞いたんだもの」
「そうだってねえ、エルンストがそんな話してたよ」
「あ、あのね、きょうはプレゼントを持ってきたの。ほらー」
「らふろんとまん」の国内盤と、主に仏語圏でも英語圏でもない国から、私のメールアドレスに届いてしまったルイ宛てのメッセージをプリントしたファイル。
「へええ、凄いな。え、CDはプロダクションにも送ってくれてたの?そうか、僕は初めて見るよ。嬉しいね。こっちの手紙は、英語で書いてあるのが多いねえ。ああ、このスペイン人のミュージシャンはよく覚えてる。ふうん、ベネズエラ、メキシコ・・・」
最初は郵送するつもりだったのを、やっと渡すことができた。ひとつ肩の荷が下りた気分。
「おっと、僕は楽器を片づけなきゃいけないな・・・ああ、ブルーノにも会うかい?おーい、ブルーノ!」
「(ばたばたばた)」←懸命に手をふっている
驚いた様子のブルーノ・シュヴィヨンが、一番上の段から楽器やマイクや片づけ中のミュージシャンの間をぬって、下まで降りてきてくれた。きょうここで会えるとは思っていなかったので、感激もひとしお。
「えーっ来てたの!すげーひさしぶりだよねー。元気だった?」
「うん。わたしねー、リスボンのコンサートも行くよー」
「そっかー。実はオレ、リスボンには行かないんだよ」
「へ???」
なにそれなにそれ。リスボンはクィンテットのコンサートなのに。会場のサイトを見たときも、メンバーにちゃんとBruno Chevillonって書いてあったのに。
「オレいまスケジュールがめちゃめちゃたてこんでてさ、リスボンに行くのはムリなんだよ。それでキャンセルしたの。翌日にフランソワ・ロランとフランソワ・コルヌルーと一緒のトリオのライヴがあって・・・」
「それってナントでしょ?パノニカでやるんでしょ?私ね、それもすごく行きたいと思ってるの。でも、リスボンから帰ってくるその日だから間に合うかどうかわからないけど、がんばる」
「うんうん、そう言ってくれるだけでうれしいよ。ありがとー」
演奏中もときおりステージ前で写真を撮っていたギ・ル・ケレックさんが、ミュージシャンをステージ前方に呼び集める。
「ミッシェル!中央に来てくれ。ルイは前に出て、そこに座って!みんな、もうちょっと寄ってくれ・・・」
皆のポジションが決まったところで、小さなライカでパチリ。
そのときの写真は、Jazz Magazine3月号に載っている。
このあとも少しルイと話せたのでベーシストのことをたずねると、ブルーノの代役で入るのはオリヴィエ・サンスだという。あれれ、ヴィレット・ジャズ・フェス問題で頑張っていた彼だ。ブルーノのベースが聴けないのは残念だけど、彼に会えるのはちょっと嬉しいかもしれない。
ところで、当サイトにはシャルル君が撮ったデリベラシオン・オルケストラの写真があります(シャルル君には、この日は会えなかったのだけど)。
この写真に写っているミュージシャンは以下の通り。
後列左から:アンリ・テクシェ、ブルーノ・シュヴィヨン、シルヴァン・リュック
中列左から:フランシス・ラッシュ、ダニエル・ユメール
前列左から:ドゥニ・シャロル、ポルタル様、ルイ、フランソワ・コルヌルー
それと、シャルル君が教えてくれたカメラマン、ニコラ・ペリエ氏のサイトにもこの日のコンサートの写真が載っています。ポルタル様、ルイ、ベルナール・リュバの名前をクリックしてみましょ。別アングルから撮った「集合写真」もありよ。
ソン・ディヴェールのサイトはフェスティヴァルが終わってトップページしかアクセスできなくなっているので、ここにメンバーの名前を書き写しておきます。たぶん当日のメンバー変更はなかったと思うんだけど、なにしろ顔を知らないミュージシャンもたくさんいらっしゃったので自信なし(^^;)
COMPAGNIE LUBAT
Bernard Lubat (ds, accordeon, vo, piano etc.), André Minvielle (vo, ds, sampler),
Patrick Auzier (tb, perc, micro-pyrotechnie), Fabrice Viera (g), Yves Carbonne (electric bass),
Samuel Bourille, Arnaud Rouannet (sax), Yoann Scheidt (ds)
INVITES / GUESTS
Michel Portal (cls, sax), Louis Sclavis (cls), François Corneloup, Christophe Monniot, Rémi Sciuto (sax), Jean-Luc Capozzo (tp), Yves Robert (tb), François Thuillier (tuba), Henri Texier, Bruno Chevillon (b), Sylvain Luc (g), Daniel Humair, Francis Lassus (ds), Denis Charolles (ds, perc), Gyorgy Kurtag (key)
ET / AND
Miguel Mipuente (cante flamenco), Georges Didi Huberman (guitarra flamenca), Paco El Lobo (cante y guitarra flamenca)