朝、私が起きたときにはジャンフィリップは仕事に出かけていて、彼女も出勤の支度をしていた。でも、ジャンフィリップは仕事場を抜けて私をパール・デュー駅まで送ってくれることになっているという(感涙)。仕事に出かける彼女を見送り、お嬢さんは風邪がひどくて熟睡状態、起こさないように静かにして、しばらく部屋でひとりくつろぐ。
迎えに来てくれたジャンフィリップの車で、あっという間にパール・デュー駅に到着。再会を約束して、彼は仕事に戻っていった。
もっともっとゆっくりしたかったけど、今日は今日でまたコンサートがあるので仕方ないのだ。ジャンフィリップのファミリーにはほんとにお世話になった。彼は、昔ジャン・ロシャール(NATOレーベル創立者)が出していたマボロシのジャズ雑誌を揃いで持っていて、私に持ち帰ってもいいよとまで言ってくれた。でも、あまりの貴重本を旅の途中で失くしでもしたら一大事だからと、大感謝して今回はことわったのだ。次にリヨンに行くときは、持って帰れるように準備万端整えていくわ〜。
2時間後、パリに戻った私は途中下車してレ・アールのFNACへ。パリ郊外の地図が欲しかったのだが、郊外全域をカヴァーするものばかりで、大きくてやたら分厚くなってしまうので諦めた。
コートで歩いていると汗ばむくらいの陽気。適当なカフェテリアで昼食を済ませた頃には疲れも出てきたので、20区の友人宅にまっすぐ帰ることにする。
メトロの駅から友人宅までは、いつも行列ができているパン屋さんや、パリにたくさんある「ギリシャ風サンドウィッチ」の店や、中華総菜店やクスクスのお店、アラブ食材店が並んでいて、昼食もこっちに戻ってなんか買えばよかったなーと後悔。活気があって気取らない街の雰囲気は、旅行者の私にはとても気持ち良い。
帰ってからは友達とおしゃべりしたり、「サウス・パーク」のビデオを見たりして夕方まで過ごした。
今日のコンサート会場はサントル・デ・ボール・ド・マルヌというところ。リヨン駅からRERのA4番(ユーロ・ディズニーに行くのもこの路線)に乗って、ヌイイ・プレーザンスという駅で下車。マルヌというのは川の名前で、会場の建物はその名の通り川沿いにあるらしい。
駅を出てなんとなく人の流れに合わせて歩いていたが、どうもおかしい。川は見あたらず、どんどん住宅街になっていくような。通りすがりのマダムにたずねると、その場所を知らなかったマダムが更に通りかかった高校生風の男の子に聞いてくれて、私が駅から逆の方向に来てしまったことが判明。お礼を言って、あわてて駆け戻った。
駅の窓口のおじさんに場所を再確認し、正しいと思われる方向に歩いていくが、駅を出たらすぐに川が見えるわけじゃないので不安で仕方がない。だんだん人気も少なくなってくるし。
ようやくマルヌ川が見えてきたところで(想像していたより広い川だった)、幸い女性が通りかかったので、「あのお〜、サントルへ行くのはこの道で良いのでしょうか」とたずねると、「ええだいじょうぶですよ。10分もすれば着きます」と教えてくれて、やっと安心できた。
フランスでこんなに人に道を聞いたのは初めてだけど、場所を知っている人も知らない人も丁寧に答えてくれるので有り難いと思った。
しばらく静かな住宅街が続いていたところに、どうやらそれらしい建物が見えてきた。市立の多目的施設という感じ。入口を見上げると、ガラスのドアに何枚も貼られた「COMPLET」(満員)の大きな文字。ロビーはすでに開場を待つ人であふれている。今夜も、おチビちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまで、さまざまなお客さんが来ている。
開場したホールに入ると、何百席あるだろう、かなり広い。中央ブロック最前列の左端の席だけがぽつんと空いていたので、これ幸いと確保。しばらくすると、席は本当に満員になってしまった。
今夜のステージは二部構成で、先にベルナール・リュバとルイのデュオがあり、後半はジャン=マリー・マシャドのプロジェクトによるオーケストラの演奏が控えている。そのため、ステージにはすでにたくさんの楽器がセットされていた。
照明が暗くなり、ルイとベルナール・リュバが登場。リュバはやはり2本の杖をついてゆっくり現れた(今夜は懐中電灯はつけていない^^;)。
二人の演奏は、とてもリラックスした雰囲気で、友情と親密さにあふれていた。
ルイは、アミアンでのエルンスト・レイズグルとのデュオでも使っていたプラスチックのコップがお気に入りで、またくしゃくしゃとやったり、とても嬉しそうだ。
リュバはピアノとパーカッションとヴォイスで、デリベラシオン・オルケストラの時と同様、ベルナール・リュバとしか言いようのない存在感で私達を楽しませてくれる。楽器以外に、いろいろなおもちゃや食器のようなものも小さなテーブルの上に並べてあったのだが、なかでもステンレスの台所用ボール?のようなものをかぶって、マレットでたたいて鳴らして、グランドピアノの共鳴箱のなかに頭を突っ込んで倍音を響かせる姿は・・・
「妖怪のおじさん」。
最後のほうではルイも椅子に腰を下ろし、客席に向かって並んだ二人が言葉で掛け合いをする場面もあって、それも、すごく音楽的だった。
演奏が終わると満場の大拍手。ルイに手を貸されながら、リュバは悠然とステージを去っていった。
休憩時間に入り、しばらく迷ったが、翌日はリスボンに行くため午前中に空港に向かわなければならないし、残念だがジャン=マリー・マシャドのオーケストラは観ないで帰ることに決めた(メンバーにベニャト・アチアリがいたりしたので、勿体なかったのだけど・・・)。
しかし、会場を出てみてびっくり。一面に霧がかかっている。そうだ、ローヌ川とソーヌ川のあるリヨンもよく霧が出るのだけど、ここもマルヌ川のおかげで濃い霧が発生して、来たときと風景がすっかり変わってしまっていたのだ。
げげげ、これならいっそコンサートを全部観てたくさんの人と一緒に駅に向かうほうが良かったかも、とびくびくしながら急ぎ足で駅に向かった。
この夜のコンサートは、すばらしいもので大満足だったにも関わらず、少々印象が薄らいでいる。たぶん、前と後にみたライヴが凄すぎたせいもあるだろう。特に、リュバはデリベラシオン・オルケストラで受けた印象があまりにも強烈だったものだから、ルイとのデュオは、ある部分では予想通りだったというか、大きな驚きを感じなかったのは事実だ。
でも、二人の演奏はとてもあたたかい、聴いている者を嬉しくさせるものだった。