自動小銃で武装した迷彩服のお兄さんがたくさんいるシャルル・ド・ゴール空港。残っていたフランスフランのお札をぜんぶユーロに交換した。ポルトガルもユーロが使えるので、再両替が不要なのはほんとにありがたい。
リスボン行きのエールフランス便が出発したのは午後1時。2時間半でリスボンに到着。時計を1時間早める(日本との時差は9時間)。リスボン空港はこじんまりしていて、ド・ゴール空港よりずいぶんのんきな感じだ。
外に出て、市内の要所要所に停車する空港バスに乗る。唯一日本から予約を入れたホテルに一番近い、ロシオ広場でバスを降りた。
少し雲が出てきたが、おだやかな気候・・・というより、フランスから着てきたダウンコートが、はっきりいって暑い。美しい劇場やモニュメント、教会。初めて訪れたポルトガルだけど、違和感なく、古びた街の色合いに気分が落ち着く。フランスより全体もうちっと濃ゆい感じの(^^;)ラテン系の顔の人々。アフリカ系の人もやはり多い。
地図を確かめてからホテルに向かう。ホテルはすぐに見つかった。古いビルで、レセプションは3階にある。1階は婦人服、2階は子供服のブティック(それも、町の商店街っぽい)が入っていて、なごんでしまう。
「ぼあ・たーるで」と挨拶すると、真面目そうなフロントのおじさんが予約を確認しキーを渡してくれた。
荷物を置き、コートを脱いで外へ出た。近くの商店街をぶらぶらして、海の見えるところまで行ってみたり、ロシオ広場に戻って教会をのぞいたり、教会の近くの素朴なカトリック・グッズ(^^;)のお店をながめたり(ほんとはお人形をいっぱい買って帰りたかったけど割れたら哀しいのでやめた。今回の旅でちょっと後悔していることのひとつ)。ほんとは夕食をレストランでとりたかったけど、ひとりなので気後れしてしまい、サンドウィッチショップでてきとうに夕食を済ませた。夜の街は麻薬の売人とかが出てきてけっこう怖いらしいので、うろうろしないで早めにホテルに戻った。
翌朝。良い天気。
ホテルで朝食を済ませ、フロントのおじさんに夜帰りが遅くなることを話すと、24時間体制で人がいるので扉が閉まっていてもベルを押せば大丈夫と教えてもらい、一安心。セーター1枚で身軽な気分。午前中はリベルダーデ通りまで散歩。ロシオ広場まで戻った後、近くの書店やCD店へ(AMALIAという名前で、もちろんファドのCDが一番多くて、分かりやすい^^;)。
昼、のんびりと街中を走る路面電車に乗って、今夜の目的地ベレンで下車。ベージュ色のモダンなベレン文化センターの場所を確認してから、青空の下にテーブルを並べたレストランで昼食(気持ちよかったけど、ひとりはさびしいわー;_;)。ふらふらと街を歩き、修道院を見学してから、ふと、古美術博物館にボッシュ『聖アントニウスの誘惑』の実物があるということを思い出して、路面電車で後戻りし、急いで博物館を回る。ボッシュはやっぱり凄かった!(しかし意外に小ぶりな作品だったのでびっくり)ミュージアムグッズがけっこう洒落ていて、いろいろとおみやげを買う。
ベレン文化センターに早めに着いたのは、「リハーサルを見に来てもいいよ」とルイが言ってくれていたからだった。全体にひなびた雰囲気が味わい深いリスボンのなかで、この文化センターはずいぶん洗練されて見える。プログラムやポスター、CD店もミュージアムグッズの店もこじゃれてる。きょうはここのオーディトリウムでルイのクィンテットと、イヴ・ロベールのトリオがコンサートを行うのだ。
しかし、ここに来て途方に暮れることになってしまった。センターのどこに行っても、私の拙い英語も手伝ってなかなか話が通じず、ミュージシャンがセンターに到着しているかどうかわからないのだ。やっと質問の主旨をわかってもらえても、「まだ来てないと思いますよ」と言われてしまうし。「?」マークを点滅させたまま、センターの近くをうろうろしたり、ぼんやりと建物のバルコニーから風景をながめたりして無為な時間を過ごした。これもまた贅沢な時間の過ごし方、と言えなくもないのだけれど。
どれくらい経っただろう。ふとCD店のほうを見た私の目に、すごく見覚えのある小柄な男の子の姿が映った。大慌てでCD店に向かう。
「ふらんそわ〜〜〜(;_;)」
約3年ぶりに再会したフランソワ・メルヴィルは全然変わってなくて、あいかわらず68年生まれの実年齢より若く見えて、かわいい(*^^*)
「うわーひさしぶりー。こんなところで会えるなんて。ポルトガルは初めて来たの?」
「そうなの。素敵なとこよね。さっき古美術博物館でボッシュ見てきたよ。クィンテットのリハーサルは終わったの?」
「うん、今はイヴのトリオがリハーサルに入ってるんだ。もしかして楽屋入りたい?行ってみようよ」
と、リハーサルが終わったばかりで疲れているのに彼は私をオーディトリウムの方へ連れていってくれた。
「ここの下にある通路を行くと、楽屋口があるんだよ」
と、フランソワが指さす下をのぞいたら、そこからルイの姿が現れた。
「おー、来たね。僕はこれからニューヨークのジャーナリストと電話で話すから、一度ホテルに戻るんだ。また後でね」
リスボンでNYから電話取材だってー。フランソワと私は顔を見合わせた。
楽屋口から入ろうとすると、受付のおじさんに制止された。私が中に入ることを許可されている人間かどうか、身元確認が必要だという。さすがに厳しい。おじさんがスタッフに連絡をとっているあいだもフランソワは嫌な顔ひとつせず一緒に待ってくれた。
「イヴ・ロベールには会ったことある?」
「うん、ちょっとだけ。えーと(あれ?ハイナー・ゲッベルスってフランスだと何て発音するんだ?)ドイツの作曲家のつくったシアターの来日公演があったの。ほらほら、うびあんるでばるくまんでざすとるー(←『あるいは不幸なる上陸』^^;)」
「あれ見たんだ!めちゃくちゃ傑作だよね。日本でって、いつ頃?」
「もう4〜5年前。だからイヴは私のこと覚えてないかも。そいえば、きょうイヴのトリオで出るシリル・アテフって凄いね。こないだブンチェロ見たよ」
「そうそう!あいつ凄いんだよホントに!シリルはベルリン生まれで、その後ずいぶん長いことアメリカに住んでた。今はフランスにいるけど」
そうこうしているうちに、会場スタッフの優しそうな女性がやってきて確認をしてくれて、私の楽屋入りはOKになった。怖そうな顔だったおじさんも、確認の終わったあとはうんと穏やかな表情になった。
「このなかは迷宮みたいに入り組んでるんだ...ほら、ここを曲がってこのドアを開けて...」
フランソワに案内されて、私はオーディトリウムの奥に入っていった。