ホテルで朝食を済ませてから荷造りし、ロシオ広場からバスでリスボン空港へ。エールフランスのカウンターのおにいさんが、「マドガワデスカ、ツウロガワデスカ?」といきなり日本語で話しかけてきて驚く。
小さな郵便局でハガキを出し、カフェテリアで搭乗までの時間をつぶした。
さよなら、リスボン。
飛行機は予定通りシャルル・ドゴール空港に到着。機内に流れるBGMに妙に聞き覚えがあると思ったら、ロマーノ&スクラヴィス&テクシェ・トリオの曲。『Suite Africaine』に入っている「Soweto Sorrow」ではないか。ひょっとしてこの飛行機にルイ達も乗っていたのかしら。
さあ、フランスに戻ってきた。これから、なんとナントへ一直線!だ(しつこくロシュフォールの恋人たち)。
どのルートが一番早いかわからなくて、とりあえず空港から出ているエールフランス・バスでモンパルナス駅に直行することにする。バスは満員。車内のモニターに、エールフランスのCFに混ざって「子供は商品ではありません」という反「児童買春」キャンペーンのCFが流れてドキリとする。TVでも児童に対する性的虐待への注意を呼びかけるCFを観た。そういえば旅行に行く直前、BSのF2ニュースで、フランスのどこかの地方で低所得者向け集合住宅に住む親達が児童買春ネットワークをつくり我が子に売春をさせていた罪で一斉検挙されたという、吐き気のするような事件が報道されたのを観たっけ。
金曜の午後、道は渋滞気味。だんだんあせってくる。なんとかモンパルナス駅に到着したときには5時を回っていた。やばい。あわてて切符売り場に飛び込む。混雑時間帯に突入していて、一番速く出発するTGVはすでに売り切れ。次のTGVの立ち席を買う。くううやっぱり先に切符を買っておけば良かったか。でも飛行機が少しでも遅れたらもう間に合わなかったんだよお。
TGVではドア脇の簡易席に座ることができて、疲れ切って2時間ぼんやり過ごす。日は暮れて外は真っ暗。そうでなくてもTGVから見る景色って殺風景なのよね。
ナント駅に着いたのは7時半だったか。とにかく、駅から一番近いところで宿を取ろうと思い、ほんとうに、駅の北口の真正面にある「HOTEL」の看板を目指した。
HOTEL・・・はて。どう見てもブラッスリー(しかもおやじ系)だけなんだけど。?マークを点灯させたまま店に入る。カウンターの太ったおじさんに、
「あのーすみません、ここはホテルなんでしょーか?」
と間抜けな質問をする。はいそうですよ、ケーブルテレビも見られますという返事。料金は前払い。ブラッスリーの奥に入って、思いっきり「勝手口」みたいなとこから狭い階段を上り、おじさんがドアのカギを開けると、応接間のような部屋があった。更に右手のドアを開けると、いきなりバスタブがある。中に入ると、意外に広い部屋とベッド。確かにここはホテルだ。それも、一部屋だけの。
うっかりして、これから行く場所の住所も電話番号も控えていなかった。「パノニカというジャズクラブ」と言っても、ホテルのおじさんは知らなかった。駅前で乗ったタクシーの運転手さんも知らなくて、無線でセンターに問い合わせてくれた。
「あなた中国人?あれ、日本人でしたか。こりゃ失敬」と話しかけてきたおしゃべり好きの運転手さんは中国人で、「jazz」と発音するのに難儀していた。
出発前に日本で観たインフォメーションには、この日のライヴは7時半から始まると書いてあったので、私はもの凄くあせっていた。でも、タクシーを降りて店の前に行ってみたら、ドアに「ce soir a 21h」・・・9時スタート?思いっきり余裕の到着。気が抜けて、時間つぶしができるカフェでもないかと探したけれど、周囲はすでに店が閉まっていて、空いてるのは本格的なレストランばかり。まいったなこりゃとパノニカに戻ってきたら、開場を待つ人達が何人か並んでいたのでほっとした。そっか、ジャズクラブだから早めに来てお酒飲むひとも多いのよね。
じつは、パノニカ(ウェブサイトがある)はフランスで初めて行くジャズクラブ。パリでさえ、ジャズクラブにはまだ行ったことがなかった(だって一昨年はどこも新年のお休みで閉まってたし)。
店の雰囲気は、うーんとピットインに近いかも。お客さんは、若い人は20歳くらいから、やっぱりけっこう年配の方もいる。いつまでも好奇心が衰えないという感じで、いいなあ。
最初に店の人が前に出て、今夜の出演者の紹介をした。フランソワ・ローラン・トリオ。もうすぐHat Hutからアルバムが出ます...
3人が登場。ステージ奥にしつらえたピアノに向かうフランソワ・ローラン。右手にフランソワ・コルヌルー。そしてステージ前の椅子に、ブルーノ・シュヴィヨンが右側を向いて腰掛け、ベースを斜めに構えた。そばの小さなテーブルには、いろんな小物が並んでいる(そこがやっぱりちょっとバリー・ガイっぽい)。
3人の紡ぎだした音楽。これはもう私が何やかや書くより、Hat Hutからリリースされた素敵なアルバム「trois plans sur la comete」を聴いていただくのが一番。私にとっては、先に体験したライヴとほとんどギャップを感じないので。
でも、あえてライヴについて書いておくなら、まずはフランソワ・コルヌルーのプレイの繊細さに驚かされたこと。昔の録音を聴いた印象が強くて、荒削りなやんちゃ坊主系と思いこんでしまっていた私が悪かったです。ごめんなさい。もーめちゃくちゃ上手いわこのひと。それと、デリベラシオン・オルケストラの時にも書いたように、彼は見た目がけっこうコワいのだけど、ステージ前半が終わったとき、
「あー、きょうは僕らのCDはまだ売ってませーん!」
とおどけた彼の声が予想外に高くてやさしかったので、笑ってしまった。てっきり、ノエル・アクショテみたいな悪ガキ・ヴォイスでしゃべるものと思いこんでいたのだ。
フランソワ・ローランは、ルイのグループにいたときはキーボードもずいぶん弾いていたけど、最近はピアノに絞ってるみたい。彼の生演奏をやっと聴くことができてほんとに嬉しい。プリペアド・ピアノにして、アフリカのパーカッションみたいな音をさせて弾くときとか、すごくカッコいいのだった。
しかしなんつーても、「眼福」度最高なのはもう、ブルーノ・シュヴィヨンなのね(*^^*)
今夜の彼は、黒と白のツートーンのゆったりしたトレーナーと黒いパンツで、長い腕で猫背気味にベースを構える姿の、なんてきれいなこと。テーブルの上のブラシや針金、マレット、それから食器洗いのタワシ?みたいなのも使って、ベースでいろんなことをするのだけど、その姿がいちいち絵になりまくる。
ラストの曲(CDでも最後のLegere Houle)、途中でブルーノがマイクに顔を近づけてスキャットを始めたときには、正直わたしゃ気絶しそうになりました。ダヴィッド・リンクスばりの声の魅力。ブルーノもっと歌うたってほしい。そういえば「パゾリーニ」のソロでは、彼は自分で、パゾリーニの詩を朗読しているのだ。ああそんなもの聴きたい聴きたい。でもパゾ・ソロはCDにしないよって前に言い切ってたもんな。
大成功に終わったコンサートの後、楽器を片づけに戻ってきたブルーノは、こんどはレオタードみたいに体にピタピタにフィットした迷彩色のTシャツと細身のジーンズに着替えていて、これがまた完璧に似合っていた。彼はほんとに自分に似合うものを知りつくしていて、超お洒落で、やっぱりオンステージよりオフステージのほうが、雰囲気が派手だ(^^;)。
名残惜しいけれど、ホテルの門限も気になるので、お店からタクシーを呼んでもらってまっすぐ帰った。テレビをつけるとケーブルテレビが入っていると言われた通りチャンネルがいっぱいあって、漫然とチャンネルを変えていたらポルノ番組やってるし(-_-;)。M6に回すと、ちょうどノワール・デジールのビデオクリップが流れていたので、連中が順調にオヤジ的迫力を増しているのを確認してしまった(でも好き・・・ベルトラン・カンタ^^;)。