目が覚めたときには午前10時を過ぎていて、窓から明るい光が射し込んでいた。いままでずっと早起きが続いていたけど、パリに戻る以外なんの予定もない今日はすっかり寝過ごしてしまった。1階のブラッスリーで朝食を食べてからチェックアウト。以前、少しだけ歩いたことのあるパッサージュ・ポムレーをもう一度訪ねるつもりだったが、さすがに疲れがたまって、荷物を持って歩き回るほどの元気がない。このままダウンしてもいけないので、おとなしくパリに帰ろう。
20区の友人宅に戻ると、彼女は昼食にカレーを作ったといってご馳走してくれた。インド移民コミュニティの店で買ってきたスパイスで、完成まで24時間かかったという本格派。マスタードのつぶつぶが入った(でも辛くはない)ヨーグルトサラダを添えて。カレーもサラダも、感動的に美味しかった。
一休みしてから、友達と近所を散歩。飲み物からトイレットペーパー(!)まで買える巨大な自動販売機があったり(一度ためしにトイレットペーパーを買ってみたら「冷たかった」そうだ)、アナーキスト集会のチラシが壁に貼ってあったり、楽しい街。小学校の前を通りかかって、壁のプレートが目に入った。第二次大戦中に殺されたユダヤ人の子ども達を記憶にとどめるためのプレートだった。このあたりはパリでもレジスタンスの抵抗運動が激しかったところなんだって、と友達が教えてくれる。
彼女がよく行くという中古レコードと古書の店に連れていってもらった。レコードはジャンルを問わずにいろいろ置いてある。比較的多いのがクラシックとポップス。子供向けレコードの棚で、『花咲ける騎士道』の音声版みたいな25cmLPを見つけた。ジェラール・フィリップの写真はないけど、ジャケットを開けると絵本のようになっていて挿し絵がかわいいので、自宅用おみやげに購入。30フラン(おお、フランの小銭が使えた)。中古ビデオソフトも売っていたが、そのなかにどう見ても「家庭でテレビ番組を録画した」だけみたいなテープもあるのが、ナゾ。
しばらく歩いて、連れていってもらったカフェは「マロキヌリー Maroquinerie」。音楽ファンにはけっこう知られているホールがあるところ。中には入れなかったが、かなり良いホールらしい。Quoi de neuf docteur ?レーベルを主宰しているトランペッターのセルジュ・アダンが、確かここで定期的にコンサートをやっていると思う。ふだんはワールドミュージック系のコンサートが多いみたいだ。
カフェは注文を取りに来るのではなく、カウンターでお金を払って飲み物を受取るシステム。屋外にもたくさんテーブルがあって、気持ち良い。中には小さなステージがあって、ピアノの弾き語りくらいはできるようになっている。
しばらくすると、女性ががたくさん集まってきて何か会議のようなものが始まる気配。このカフェはフェミニズムや人権問題の勉強会や会議にも使われているらしい。壁には、アフガニスタンの子ども達を撮った大きなポスターが張られている。
フランスの街を歩くときに、東京ではたぶん決して味わえない喜びがある。
歩行者と自動車の関係。
車が来ていようが赤信号だろうがタイミングを見計らってどんどん向こう側へ渡れる。車もそのへんは心得ていて、人間が渡っているとみればてきとうに速度をゆるめてくれる。信号のない横断歩道なら、遠慮しないでとっとと渡らないと、かえって自動車にも迷惑をかけることになる。
フランス人の車の運転は極めて自分勝手だというし、交通事故も多いそうだけど、でも、東京の街で何度も経験している、自動車に対する不愉快な思いは、ここにはない。歩いている人間と、運転席にいる人間とのあいだにしっかりコミュニケーションが成立している。
これがリスボンでは更に歩行者の方が偉くて、思いっきり歩行者側の信号が赤なのに、自分の方が青信号なのに、車が自主的に止まって横断歩道を渡らせてくれるのだ!2泊しただけのあいだに2回体験したので、これはかなり日常的なことなんだと思う。こんなの、東京じゃ不可能だ。ああ、ラテンの国はいいなあ(^^;)
夜は、せっかく20区にいるのだから美味しいクスクスが食べたくて、友達と彼女のボーイフレンドと一緒に、お薦めのチュニジアレストランに行った。内装がかわいいお店で、クスクスがとっっっても美味しかった。お世話になった友達にせめてものお礼がしたくて私が二人にごちそうしたけれど、でも3人分でもちっとも高くないのよ。こんなに美味しいのに。
翌日は日曜。日曜というのはフランスではだいたいお店が休みになってしまうので、案外つまらないものだったりする。ポンピドゥーセンターでダンスビデオの上映をやっているのというので行ってみた。無料で入れるフロアのスペースに並んだモニターの前に座って、順番に映し出される映像を眺める。私が座ったときには、フィリップ・ドゥクフレのビデオが続いていた。かわいいんだけど、楽しいんだけど、ドゥクフレって「ダンス」じゃないような気がする・・・その後はジョゼフ・ナジ。こちらもかなりシアターっぽい感じ。カッコいい映像だったけど。ルイが音楽をやっているマティルド・モニエのビデオなんてないかな、と期待したのだがプログラムには入ってなかった。ちっ。
展示を見る元気がなくて(かなり疲れてるのかなあ)、センターの中にあるフラマリオンの書店に入ったところで、マルグリット・デュラスの映画ビデオセットを発見。狂喜して即買い。今回の旅で一番高い買い物だった(笑)。