私はフランクとローの家にいて、コーヒーを飲みながら2人が賢明に電話をかけているのをながめていた。2人は、自宅の電話と携帯電話を使ってリダイヤルをしまくっている。
「ねえねえ、何をしているの?」
「今度ね、スイサイドがパリでライヴをするのよ。今日がチケット売り出しなの。でも会場が小さいところだから、チケットの枚数が凄く少ないのよ」
「す〜いさいどぉぉぉっっっ!!!!!?????」
もーびっくりしたけど、凄いやスイサイドって現役バリバリなんだねえ。でもいつか日本でライヴっていうのはあり得るのかなあ。そもそも入国許可が下りない人達じゃないかって気もするけど。
けっきょく、電話がつながったときにはすでにチケットは完売していたらしく、2人は友達にチケットが手に入ったかどうか連絡を入れていた。
午後。2年ほど前に開通したばかりというメトロ「14」番線に初めて乗って、初めて降りたピカピカのビブリオテーク・フランソワ・ミッテラン駅は、東京の南北線みたいにホームにも自動ドアが付いている最新式。新しい車両の中では、1回だけだが必ず各駅で駅名アナウンスが流れる。
パリ市内(13区)とはいっても建設中のビルがいくつも見える、まだ殺風景なこの再開発地区で、きょうは、今回の旅最大のイベントがある。
が、その前にもうひとつ、かわいらしいイベントが私を待っていた。
ドラジビュスが出演しているミニ・サーカス、Cirque Electrique(ウェブサイトは今改装中だそう)。あいにくの雨だったが、小さなテントのなかではお父さんやお母さんに連れられた「小さなお友だち」がベンチにちょこんと座っている。
シルク・エレクトリックの出演者は、6人だけ。ドラジビュスのフランク、ロー、レオの3人と、空中ブランコや軽業をするおねえさんとおにいさん、それから「おうまさん」。ローは来日公演でも着ていた「キリンさん」のコスチュームで、とてもかわいい。サーカスの出し物はすこぶる古典的だが、小さなお友だちは目をみはって一所懸命観ていた。
終演後は、おうまさんがジュースのいっぱい入ったワゴンを持ってきて、軽業師のお兄さんがクレープを焼くおやつタイムになった。空中ブランコのおねえさんと子ども達が楽しく踊っている・・・フランクがかけているのはアラン・ヴェガのLPだったりするのだが。(^^;)
5歳くらいの男の子が、すっかりマドモワゼル・ジラフ(ロー)に恋してしまい、お母さんが帰り支度をさせようとするのに必死で抵抗していた。
夜のイベントの場所と、ここから徒歩15分くらいで行けるという大きなチャイナ・タウン(プラス・ディタリー周辺)をシルク・エレクトリックの人達に教わって、ひとりで散歩がてら食事をしに行った。帰路、運悪く嵐のような大雨と強風にあってしまい、傘があってもひざから下はビショビショ。屋根のある所に駆け込みながら駅まで戻った。
今夜の会場はテアトル・デュ・リエールという劇場。周りも静かなら劇場入口も静かで不安になったが、意を決して階段を上っていくと、ロビーのカフェテリアにはすでにけっこう人が集まっていたのでほっとした。コーヒーを飲んでいるとシャルル君も友達を連れてやってきた。
開場すると、最前列はあっという間に埋まってしまった。私達3人はなんとか、2列目の右よりに並んで席を確保。きょうも最終的にチケットは売り切れたようだ。もう少し大きな会場でも良かったのではと思うほど。ステージ前の空きスペースに座る人も出てきた。
照明が落とされ、まずステージにひとりで登場したのはフランソワ・コルヌルー。2月1日にナントのフランソワ・ローラン・トリオで素晴らしい演奏を聴かせてくれた彼は、またとても繊細かつ力強いソロで、大きな拍手を受けた。
休憩時間、シャルル君達はロビーに出ていったけれど、私はなんとなく席を離れることができなかった。不安と期待で落ち着かず、準備中のステージをじっと見つめているしかできなかった。
これから始まる後半のステージで、いったい何が起こるのだろう。