きょうのコンサートはちょっと早めの5時から始まる。RERのAntony駅で降り、恐怖の「バス」に乗り換える。びくびく。ああやっぱりアナウンスなんてない。ガラス窓に顔を貼り付けて通り過ぎる停留所を何度も確認し、えいやっと降車ボタンを押す。
さて、降りても自分がどこにいるのかさっぱりわからない。停留所で別のバスを待っていたリセエンヌ風の女の子に聞いて、大通りに出てみると、どうやら私の目的地を示しているらしい看板がある。集合住宅やごく普通の家が並ぶ道を回っていくと、きょうのコンサート会場グランジュ・ディミエールがあった。Grange(納屋)という名前の通り、かつては本当に大きな納屋だったのではと思わせる古い建物。でも中庭にはナゾのインスタレーションがあって、たぶん今ではコンサートや演劇などの催しに使われている場所なのだろう。
ステージにはたくさんの譜面台やマイクが並び、きょうの出演者の多さを物語っている。客席の前の方はパイプ椅子を並べ、後ろの方は雛壇状に古びた客席。きょうはまた一段とファミリー風のお客さんが多い。
コンサートの第1部はOccidentale Fanfareのステージ。管楽器にバグパイプ、アコーディオン、様々な打楽器と、15人くらいいるメンバーの出身地はブルターニュとオクシタン地方だそうで、フランス各地の伝統音楽にファンク的な要素も絡めたパワフルでノリの良い演奏で、おおいに受けていた。
後半は更に地元の人達が参加しているアマチュアブラスバンドや音楽学校の生徒が加わって、ステージもぎゅうぎゅう詰めになってしまった。音楽学校の生徒は、最年少は11〜12歳くらいの子ども達。最前列にいる男の子2人は「ふたごちゃん」だ。かわいい。これで、今日の客層がいつもに増してファミリー度が高いのに納得。「かわいい孫の晴れ姿」を見に来ているおじいちゃん、おばあちゃんもいっぱいいるのだった。
曲はOccidentale Fanfareのリーダーの人が作ったらしい、かなり複雑な構成の曲で、こういうとこ手を抜かないのが偉い。子ども達がものすごく真剣にサックスやフルートやファゴットを吹いている。ゲストにイヴ・ロベールとアコシュ・Sも加わって盛り上がった。
休憩をはさんで後半のステージは、イヴ・ロベール・クインテット。旅の最後に、CDを聴きまくっていたこのクインテットのライヴを観られるとは、なんという幸運だろう。しかし、ひとつ気にかかっていることがあった。クインテットのメンバーで、私の大好きなギタリスト、ダヴィッド・シュヴァリエが、きょう別の場所でパトリス・カラティーニのビッグバンドのライヴをやっているはずなのだ。まさかギター抜きになってしまうのだろうか?
不安はすぐに打ち消された。他のメンバーが揃った後に、ダヴィッド・シュヴァリエが駆け込み、急いでギターをチューニングしている。そのあいだに、イヴ・ロベールが、例のマイペースな調子で挨拶を始めた。
「きょうは全く素晴らしい日です。なぜなら、僕らのクインテット「L'Ete」(夏)が、この「Sons d'hiver」(冬のサウンド)に招かれた。まさにソン・ディヴェールが実現したのですから(会場、笑い)・・・.」
最後の部分を解説すると、"Sons d'hiver"と、"Sons d'Yves R"(イヴ・Rのサウンド)が発音上はほとんど区別がつかなくなってしまうのに引っかけたシャレをかましているのです。うーんさすがイヴ・ロベール、遠い親戚にロベール辞典の編纂者がいる(←まじ)だけのことはある!
ちなみにイヴ・ロベールのMCによれば、超売れっ子(^^;)ダヴィッド・シュヴァリエは、午後に行われたカラティーニのビッグバンドのライヴ会場から大急ぎでこちらに駆けつけてきたのだそうだ。
クインテットのライヴは、ゴキゲンだった。やっぱりあの「ねまき」姿で出てきたローラン・ドゥオールのクラリネットやサックスが縦横無尽に駆け抜ける。エレーヌ・ラバリエールお姉様は、黒いシャツとパンツのラフなスタイルでも赤く染めた豊かなロングヘアがとてもエレガントで、最初はサボを履いていたのにいつのまにか裸足になってしまってベースを弾くお姿も、もちろんベースそのものも、ほんとにほんとにステキだった(*^^*)。帽子をかぶらずに出てきたシリル(剃り上げたアタマのてっぺんにちょこんと三つ編みの乗っている「弁髪」だった!)も、またまた痛快なドラムスで、もう、シリル最高、愛してる。ダヴィッド・シュヴァリエもあの「きれいだけど変なギター」で応戦。そしてリーダー、イヴ・ロベールは水を得た魚のように自由自在にトロンボーンを駆使して、真冬の(とはいってもあんまり寒くないのだが)フランスにクールな架空の夏をつくりあげた。
2,3曲が終わったところで席を立つ人達もいたが(主に「孫の晴れ姿」を見終わったおじいちゃんたち^^;)、「Au revoir(さよなら) 〜」と声をかけるイヴ・ロベールの、のーんびりした感じはいいなあ。
終演後、シリルが声をかけてくれて、楽屋を訪ねることができた。あれれ、なんだか子どもがたくさんいる、と思ったら、開演時間が早かったこともあってか、パリに住んでいるミュージシャンが皆、ファミリーで来ていたのだ。イヴ・ロベールの奥様はいかにも知的で仕事できそうなパリジェンヌという感じだけど、笑顔がとても優しい。10歳か11歳くらいの賢そうな坊やは、同い年くらいのエレーヌの坊やと仲良く遊んでいる。シリルの奥様はラテンアメリカ系かアフリカ系のエキゾチックでチャーミングなひとで、ふたりはおしゃれなクラブ系カップル。よちよち歩きを始めたばかりの、くるくる巻き毛のかわいい男の子を連れていた。小さな坊やをひょいと抱き上げて、のっぽのシリルがやさしいパパの顔になった。
翌日、ドラジビュスのフランクとローと一緒に美味しいタイ・レストランのバイキングでランチを食べた後、私は旅行鞄を引っ張ってひとり、シャルル・ド・ゴール空港に向かった。
フランスでたくさんの方にお世話になって、旅を無事に終えられたことを感謝しながら、日本の日常に戻っていった。
* * *
旅行記はこれで終わり。
でも、気が付いたらひとつ書き忘れていたことがあったので、ここに付け足しておきます。
1月27〜28日の日記で、「ディミトリ君のパパ」が大昔「ルイと一緒にステージに立った」という話。
私はてっきりルイがミュージシャンとして舞台に立ったのだと思いこんでいたのだけど、リスボンでルイに聞いたら、「違う、僕は俳優だったんだよ」と言われたのでした。当時の写真、募集〜っ!
駆け足で書いた旅行記なので、他にも思い出すことがあったら、また別項で書き足すかもしれません。・・・足さないかもしれません。(^^;)