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ぽつりぽつりと空席があるものの、ほぼ満員の場内が暗くなる。きょうからル・マン市内でのフェスティヴァル・プログラムが再開しているので、アルマンさんは会場には来ていない。3人がステージに現れ、すぐに演奏が始まった。
この日のコンサートは、私の記憶では↓こんなプログラムだった。
ルイ・スクラヴィス、ブルーノ・シュヴィヨン、フランソワ・メルヴィル。3人が来日したのが、1999年の3月。私はあのとき追っかけ(^^;)をしたので、初日の松本公演から、東京、広島、横浜、埼玉と計5回のステージを観ている(その他にバーバー富士でルイのソロライヴもあった)。
あのときも、回を重ねるごとにトリオの演奏が変化していくのを体験して、毎回驚いていた。でも、まる5年経ち、ヴァンサン・クルトワやジャン=リュック・カポッゾを加えたクィンテットでの長い活動を経て、本人達にとってもひさしぶりというトリオの演奏は、確実に、変化し、進化していた。以前よりさらにソリッドになって、アグレッシヴになっていた。
このサイトを見てくださっている方のなかには、99年のライヴをご覧になった方がけっこういらっしゃると思います。そのとき、皆さんそれぞれにいろいろな印象を抱いたことでしょう。でも。彼らの演奏は、もうすでに「あの時の程度」に収まりきるものではなくなってしまっています。ルイたちを日本で観る機会がなかなかめぐってこない今、こういうことを書くのはつらいのだけれど。
終演後も劇場ロビーにはけっこう人が残って、ちょっとしたドリンクパーティのような感じになっていた。
着替えてロビーにやってきたブルーノは、やっぱりオンステージよりオフステージで着ている服のほうが派手で(^^;)私の写真ではよくわからないと思いますが無精ひげをはやしていて、でもブルーノだと無精ひげもきれいなのだった(うっとり)。
現代音楽の作曲家サミュエル・シギチェリ(Samuel Sighicelli)とレコーディングしたという情報を見かけたことがあったので、そのことをたずねると(「えーっ、そんなことまで知ってんのおー」と驚かれた^^;)ドラムスのエリック・エシャンパールも参加したレコーディングは確かに終わったのだが、まだどこからリリースするかが決まっていないということだった。「マルク・デュクレの『Qui Parle ?』でシュヴィヨンがエレベを弾いている」という、ベーシストの池上秀夫さんからの指摘の話もすると、
「うん、オレ今、たまーにエレベ弾いてんの。マルクが大人数のプロジェクトをやるときがあってさ、そういう時だけ」と言っていた。
フランソワ・メルヴィルもロビーにやってきた。
「こないだ会ったのはリスボンだっけ?そうか、その後に香港もあったんだよね!その後、元気だった?日本はどう?」
「ダメダメ。状況悪いよー。ル・モンドで読んだでしょ?イラクの人質バッシングのこととか。もー恥ずかしい。首相も都知事もサイテー」
「でもオレたちだって首相がラファランだしさー。最近はこれじゃさすがにマズイってちょっと左翼が持ち直してるけど、大統領選の頃なんて、もう...」
「あ、あのさー、観たよ。あなたとヴァンサン(・クルトワ)とオリヴィエ(・サンス)が出てる短編映画...」
「えーっ!なんで君があれを観てるのお!」
「だってサイトあるじゃん。ダウンロードできるじゃん。もー、最高だったよ」
「ああ、そうか〜。あれ、評判よくてDVDが良く売れたんだよ(笑)。でも、オレらが伝えたいことはよくわかったでしょ?」
「うん。でも、日本じゃそもそもアンテルミタンなんて制度ないし...」
「そう、他のどこの国にもない。フランスだけ。でもだからこそ、こういう制度が『存在する』ことを守っていかなきゃいけないんだよ。制度が『存在する』っていうことが、他の国のミュージシャンにとっても希望になっているんだ」
フランソワは今、新しいプロジェクトを抱えている。ある、強烈に個性的な作曲家(フランス人ではない)の作品に取り組むのだという。今のところ予定されているメンバーはクリストフ・モニオ(sax)とジル・コロナド(guitar)、他に名前は聞かなかったが若いベーシストも参加するそうだ。その作曲家の名前(まだ、アレンジをあれこれ考えている最中だというので伏せておきます)を聞いて、うわーそれってすっごく面白そうだけどめちゃめちゃ難しそうじゃん、と驚く私に、「でも、だからこそやりがいがあるんだよ!」というフランソワの目はキラキラしていた。
彼は、フランスのジャズシーンのなかでも一番クリエイティヴなところで活躍しているミュージシャンのひとりだ。断じて、ズルして失業保険をもらっているような輩ではない。アンテルミタン制度が、彼のようなミュージシャンが仕事を続けていき、新しい音楽を創り出すための支えのひとつになっているのなら、私は制度改悪に反対するミュージシャン達を支持していきたいと思う。
ルイには、jazz magの別冊で読んだ「デヴィッド・リンチが好き」という発言の真偽を確かめて、ほんとに好きだとわかってちょっと退いたり(苦手なもんで>自分)、逆に「最近の日本の映画監督でお勧めは」と聞かれて「キヨシ・クロサワ(シネアストでクロサワって二人いるのよ、間違えないでね)」と答えたりした。ブルーノとフランソワはちゃんと名前を知っていたようだけど、さて、日本人の名前を全然覚えられないルイは「キヨシ・クロサワ」を記憶していてくれるだろうか(^^;)。