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はじめに、ひとつ訂正があります。5月4日のるいるいトリオの曲目で、最初に「Dans la nuit」と書いていましたが正確には「Retour de noce」。「Dans la nuit」だとあのワルツのテーマ曲になっちゃいますね。デイヴ・ダグラスとルイの共演盤「Bow River Falls」でも、「Fête Foraine」のイントロではこれを演奏してます。
ル・マンでは4月から5月にかけて、 Puls'Art 2004(オフィシャルサイトがある)という、複数の会場を使った現代美術のイベントも開催されていた。ドミニク・セルヴとルイのコンサートの日、隣席のマダムに教えてもらったリシャール・テクシェの美術展(Richard Texier、別にアンリ・テクシェと親戚だというわけではないらしい。しばらく日本に滞在したこともあるそうだ)もこのプログラムの一環として開かれていたものだ。会場はカテドラルに近い、Collégiale de Saint Pierre la Cour。13世紀に建てられた美しい建物で、現在はギャラリーとして使われている。一応カンバスに描かれた絵画なのだが、エッチングのように見えたり、金属や海洋図などが埋め込まれているような?不思議な大判の作品は、この天井の高い歴史的建築物によく似合って美しかった。ここはEuropa Jazzの会場としても使用されている。5月8日(土)には、私もここでコンサートを見ることになる。
(ここまで書いて思い出したのだけど、この日は正午からギタリスト、カメル・ゼクリのコンサートが行われていた。私はうっかり見逃してしまったのだけど、いくら午前中とはいえコンサートの前にゆっくり展示を見られただろうか?もしかしたら見に行ったのは4日だったかもしれない。このへんのことは旅行中に書いていたメモにも残っていなくて、すでにうろ覚えだわ。なさけなし)
今日もまたヴュー・マン(旧市街)地区を散歩。日曜日に出会った猫に再会。窓辺でお食事中のところをカメラに収めた。
・・・と、なんとなく気配がして目をこらすと、猫のいる窓辺の向こうから、眼鏡をかけたおばあさんがこちらを見ていた。一瞬、ピンポン・ダッシュを見とがめられたような気持ちになったが、マダムはニコニコ手を振ってくれていたので、ちょっと安心、挨拶を返した。(写真5)
隣の管楽器修理店が、オープンしている。ディスプレイにはまたまた、見慣れたEuropa Jazzのルイのポスターとバスクラが飾ってある。管楽器の演奏など全くできない人間が入店するのはどんなものかとしばらく迷ったが、ホルン?を抱えたおじさんが店から出てきたところで、勇気をふるって店内に入った。
「こんにちは。私はルイ・スクラヴィスのファンで、Europa jazzを見に来てるんです。お邪魔でなければ、お店の中で写真を撮っても良いでしょうか」
「かまいませんよ。そうそう、スクラヴィスもフェスティヴァルの初めの頃に、楽器の調整のために一度こちらを訪れたんですよ」
と店のご主人は快諾してくれた。店内には女性と若い職人さんもいたが、皆おだやかな感じの良い方々だった。
(写真6)
午後おそく、再びホテルを出る頃に雨が降り出した。Puls'Art 2004の他の会場もいくつか見てみようと思っていたのだが、雨は次第に強まり、土砂降りになってしまった。さすがに歩き続ける気力がなくなって、まっすぐパレ・デ・コングレ(国際会議場)に行くことにする。今夜はル・マンから50kmほど北にあるアランソンでNapoli's Wallsのコンサートがある。そのためバッティングしているル・マン市内のコンサート2つ(フィル・ミントンのプロジェクトとラモン・ロペス「songs of ths spanish war」...どちらもバッティングさえなかったらぜひとも見たかったものだ。とほほ)は見逃す予定だが、17時30分からパレ・デ・コングレで始まるコンサートはなんとか見ることができる。
早めに会場に着き、ロビーのソファに腰かけてJさんを待っていると、ディレクターのアルマンさんが通りかかった。
「おや、今日はアランソンには行かないのかい?」
「いえ、Jさんと一緒に行くんです。ここのコンサートを見たら出発します」
いつのまにか雨はやんで薄日が差し、やがて仕事帰りのJさんが到着した。アルマンさんがJさんに話しかけている。会場が遠いので、遅れないように気を付けてと言っているらしい。
開場の前に、パレ・デ・コングレの建物の中にあるギャラリーの展示を見に行くと、そこにはサラ・コフマンのお姉さんだというおばあちゃマダムと、アンドレ・マンヴィエルとルイのデュオのコンサートで挨拶をしていたムッシューがいた。そうか、お二人は夫婦なんだとようやく気付く。「まあ、またお会いできたわね」と、おばあちゃマダムが喜んでくださって、私も嬉しい。
「ずっとルイのコンサートをご覧になってるのね?彼は本当に優しくて素晴らしい人ね」
「はい〜〜(トキドキ ヘンナコト イウケド・・・)」
「それに彼、ハンサムじゃない?」
「え、え〜〜〜^^;(イヤ アノ ソノ はんさむ チウタラ ぶるーの・しゅう゛ぃよん ノ ホウガ・・・)」
パレ・デ・コングレのコンサートは、Paul Lovens、Wilbert De Joode、Jean-Luc Cappozzoのトリオ。2003年ミュルーズのフェスティヴァルが初演だったという、ドイツとオランダの重鎮が参加したこのトリオは、本当にカッコいい、濃密なフリージャズだった。ジャン=リュック・カポッゾも、ルイのクィンテットのときよりこちらの演奏の方が良いかもしれない。
ただ、私はちょっと出発時間が気になって、後半になるとせっかくの演奏に集中できなくなってしまっていた。結果的には全く無用の心配をしてしまったので、ちょっと損した気分。
コンサートが終わり、Jさんの車で出発。きょうはカメラマンのCさんも一緒だ。まず、Jさんのお宅に寄って、大急ぎで夕食を済ませ(またまた美味しいディナーだった)、奥様のRさんも加わって、アランソンに出発。
車中ではいつのまにか、Rさんの昔話に花が咲いていた。Rさんのお祖父さんは「ニュース映画」専門の映画技師で、田舎町を回ってニュース映画の上映会をしていたのだという。Jさんがからかう。
「これでRがどんなに年寄りかわかったろう、ヒャッハー!」
「いやあね、私がほんとに小さかった頃の話よ」
映画は、町の公民館で上映したのだろうか?皆、楽しみにしていたのだろう。お祖父さんは幼いRさんの自慢だったろうな。田舎町の人々が集まり、目を見張ってニュース映画を観ている風景を想像すると、それこそ映画の1シーンのようだ。