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朝食をとり、ほっそりマダムのいるレセプションでチェックアウトを済ませた。土曜日もこのホテルに部屋をとることができたので安心。
ル・マン駅へ。朝の気温はずいぶん低く、風もある。しばらくの間、ホームの端のほうにあるガラス張りの待合室で寒さを避けながらTGVの到着を待った。
出発時刻が迫ったので乗車口に戻っていくと、ベンチに見覚えのある姿。ヴァンサン・クルトワとハッセ・プールセンだった。パリ行きのTGVも同じホームから出発するのだ。
私はこれからリヨンに行くんだよ。そうか、マルセイユ行きがリヨンにも停まるんだねえ。僕らのほうが先に出発だ。また会おうね。
そう、私はてっきり、ル・マンからリヨンに行くにはパリあたりで乗り換えるのだと思っていたのだけど、今は直通のTGVがあり、乗り換えなしの3時間でリヨンに到着できるのだった。(これは南仏在住のカメラマンCさんさえ知らなかったくらいなので、最近そうなったことのようだ)
車内はほぼ満員。やはり荷物置き場は封印されている。こんどは隣の席の女性が、私の荷物を棚に上げるのを手伝ってくれた。
TGVは予定通り、正午にパール・デュー駅についた。荷物を抱えて階段を下り、しばらく待っていると懐かしい声がした。
友人のJP。平日なのに、仕事の昼休みを利用して私を迎えに来てくれたのだ。彼と一緒にバンドを組んでいるD君も一緒だ。挨拶もそこそこに、JPはさっさと私の荷物をひょいととりあげ、駐車場に向かった。
車はJPの住む地区に向かう。JPのファミリーは今年、住み慣れているがちょっと狭かったクロワ・ルス地区のアパルトマンから、今のアパルトマンに引っ越したばかりだ。今夜、JPやD君と一緒に行くことにしているコンサートの会場は、偶然、JPの家から徒歩5分の近所にある。「リヨンではホテルの予約禁止。絶対に僕らの家に泊まること」というのが、JPの命令だった。
いったん、車をアパルトマンの駐車場に停めてから、JPは私たちを近くのレストランに連れていってくれた。
「この界隈には、1950〜60年代のフランスの町並みがまだそのまま残っているんだよ」とJPは言う。なるほど、トリュフォーやルイ・マルの映画のなかで、モノクロの映像で見たことあるような路地と古い建物だ。
レストランは仕事の合間にランチをとっているお客でにぎわっている。ここに「観光客」が来たのは私が初めてではないか、と思うような、地元の気取らないレストランだ。
JPたちは「仕事中に食べ過ぎると午後眠くなってしまうから」と、軽めのメニューをとる。でもフランス人なので昼間っからワインをとるのは忘れないのだった。私は、ル・マンでは食べていなかったマトンのステーキを注文。フランスはおいしいマトンが安くていいわあ。ああ、「肉食」がどんなに環境負荷が高いとわかっていても、あたしゃヴェジタリアンにはなれましぇん。ごめんなさい。
食事のあとD君と別れ、JPと私はアパルトマンに戻った。エレベーターのない古いアパルトマンの最上階(5階か6階だったか)で、これを毎日上り下りするのはそうとう運動になるなあと思ったけれど、ドアを開けた瞬間、JPたちがこの部屋に速攻引っ越した理由がわかった。
広々とした、落ち着いたリビング・ダイニング。キッチンは古いタイプだけど、使い込まれていい感じの色になった木製のカウンターがある。街の騒音もここまでは届かない。おしゃれなバスルームに夫婦の部屋。そしてお嬢さんのCちゃんの部屋には、なんと専用のシャワールームがついている!ヨーロッパっぽーい!
奥さんのPさんは仕事、Cちゃんはまだ学校から帰ってきていない。JPも仕事に戻った。私は鍵を預かり、近所にあるという劇場を探してみた。
劇場は、ほんとうにJPの家の近所にあった。Théâtre des Jeunes Années。古いが、かなり立派な劇場だ(外観の写真を撮り忘れてしまった)。直訳すると「若い日々の劇場」となるここは、ふだんはその名の通り、児童向けの演劇などを上演しているようだ。入口には今夜のコンサートのチラシがたくさん張ってある。すでにスタッフらしき人達が中にいたので、開場時刻を聞こうかと思ったが、なんとなく気後れしてやめてしまった。
部屋に戻ってしばらくすると、Cちゃんが帰宅した。初めて会ったときには10歳くらいだったCちゃんも、今はおしゃれ好きな中学生。小さな頃から眼鏡をかけているが、はっきりいって美少女だ。会うたびにきれいになっていく。とても賢いコだけどTVっ子でもあるCちゃんと私は、ソファで一緒にTVを見まくり。最初はオーストラリア制作の学園ドラマで、次にNHKでも放映していた「チャームド」。それからジャッキー・チェンのアニメシリーズ(そんなのがあるのね)と、私が日本で一度もまともに見たことがなかった番組ー「ドラゴンボールZ」。(^^;;;
JPも仕事から戻ってきた。Pさんは遅くまで仕事があるらしく、コンサートにも行けないようだ。Cちゃんに留守番を頼み、私たちは劇場に向かった。