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目が覚めたのは8時頃だったか。JPたちも起き出した様子だ。ぼんやりしていると、奥さんのPさんが、いつもの素敵な笑顔で起こしにきてくれた。出勤前の慌ただしい時間のなかで再会。寂しいが、私も今日は午前中にリヨンを出発しなければならない。
学校へ行くCちゃん、出勤するPさんに、再会を約束してさよならを言う。
JPだって忙しいのに、出勤ついでに私を車で駅まで連れていってくれ、TGVの切符を無事に手に入れるまで見守っていてくれた。
A Bientôt。こんどリヨンに来るときは、JPたちが困るほど、ゆっくりのんびり滞在するわ。
10時すぎに出発するTGVに乗り込む。出発直前だったため指定席はとれず「立ち席」(空席があった場合だけ座れる)を購入。切符に記載された車両は2階建てで、私は階段の脇に、なるべく邪魔にならないように立った。他には若い女の子が二人。私たちの脇を、アフリカ系の家族連れが2階席に上がっていく。
と突然、その家族連れのひとりだった男性が大きな荷物を持って大急ぎで階段を駆け下り、荷物をドン!とトイレの前に置き去りにして外へ飛び出していった。ぽかーんとしている私たちの目の前でドアが閉まる。
「ねえ...ちょっと...今の何?」
「あのムッシュー、どうしたのかしら?戻らなくていいの?」
互いに目を合わせた私たちは困惑しながら笑い出してしまった。ひとりの女の子が推理する。
「きっと彼は見送りよ。マダムだけじゃこの荷物を2階から降ろすのが大変だから、ここまで持ってきたのね」
「でも荷物がこのままじゃいけないわ。私、マダムを探してくるわ」
もうひとりの女の子がさっと2階に上がる。しばらくすると、彼女と一緒にマダムが降りてきた。
「まあ、なんてことでしょ、こんな所に荷物を置いちゃって...ごめんなさいね」
いかにもアフリカ的なビッグ・ママは、荷物置き場に大きなバッグを入れて、礼をいって戻っていった。
女の子二人はもともと指定席があったのか空席を見つけたのか、車両に入っていった。
「あなた、ここにずっといらっしゃる?私の鞄、ここに置いたままにしてもいいかしら?」
「ええ、もちろん」
このTGVでは珍しく荷物置き場に封印をしていなかったのだが、すでに棚が満杯になっていたようだ。
「立ち席」というと他に何人かいるものだが、いつのまにか乗車口に残っているのは私ひとりになっていた。検札に来た女性乗務員が「空席があるか見てきますね」と言ってくれる。結局空席はなかったのだが、たまにトイレや携帯電話を使うために降りてくる人がいる以外、この空間は私の独り占め。階段に座り込んで、私は思う存分メランコリーにひたった。
正午すぎ、パリ・リヨン駅に到着。長ーーーーーい動く歩道に乗ってメトロの駅へ。目指すはベルヴィル。友人LとFの住む街。
階段を上って外に出たとたん、そこは様々な肌の色、様々な風俗の移民達が行き来するパリの下町。ベルヴィルは再開発が進んでおしゃれなカフェなんかも増えているが、中国系、ムスリム系、アフリカ系の人達があふれて、がちゃがちゃと小さな店やおやじ飲食店が並んでいる基本的な様子そのものはあまり変わっていない。
あらかじめ教えてもらっていたコード番号を押してアパルトマンのドアを開け、狭いエレベーターでLとFの部屋へ。Lとかわいい飼い猫が出迎えてくれる。パートナーのF君は仕事で不在だ。
昼食をとっていなかった私を、Lが近くのチャイニーズ・レストランに連れていってくれた。チャイニーズといっても、パリにありがちな、ベトナム料理も混ざってるような感じのお店。私が頼んだのは、ライスの上に焼いたポークと、いろんなハーブをどっさり添えたディッシュ。とってもおいしい。
今夜はLと二人で出かけるので、夕方またLの自宅で待ち合わせることにして、私は一通りの用事を済ませるために出かける。
まず目指したのは...パリ・オペラ座。入口で荷物チェックを受けて、入ったのはブティックだけ(^^;)この旅行のせいで、姪が初めて出るバレエの発表会に行けなかったので、罪滅ぼしに「バレエちゃんみやげ」を買う約束をしていたのだ。オペラ座バレエ学校の本を見つけ、解説に英訳がついているのも確認して、姪へのおみやげは決定。私はぬかりなく自分へのおみやげも探す。
あったわ。ありましたわ。1998年、オペラ座往年の名プリマ、イヴェット・ショヴィレ様の80歳誕生日おめでとう記念パンフレットが。おーっほっほっほ。
「バレエ界のガルボ」ショヴィレ様。 右は「グラン・パ・クラシック」の決めポーズ | |
Yvette Chauviré(Opéra National de Paris, 1998) |
「もしや」と思い立って、またメトロに乗り今度はルーヴル美術館へ。ガラスのピラミッドの入口ではオペラ座より更に厳しい、空港みたいな荷物チェックを受けて、入ったのはやっぱりブティックだけ(^^;)本や文具には目もくれず、一直線にビデオの棚に行ってみると...
あったわ。ありましたわ。ルーヴル美術館友の会(?)の人々の活動を追ったドキュメンタリー「Pour L'Amour de Louvre」。ルイが音楽を担当しているという情報だけ入手していたもの。ちゃんとビデオソフトになっていた。でも、棚にはいかにも年月の経ってそうなのが1本残っていただけ。もしかして私が買ったのが最後の在庫だったのかもしれません。
4 septembre駅の近くにある、日本語が使えるネットカフェに行ってひさしぶりに日本語入力をしてから、シャトレ駅まで出て明日のTGVのチケットを買い(もーいきあたりばったりですんごいムダな動き方^^;)、ベルヴィルのLの家に戻ってきたのは18時ごろ。お茶を一杯もらって、支度をして、こんどはLと一緒にメトロに乗った。