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一夜明けたパリは雨模様。Lがコーヒーを煎れてくれる。私は今日もまた朝のうちに出発しなければならない。22時間だけのパリ滞在だった。昨日遅くまで仕事をしていたF君は、私が出かける前には起きてこないことがわかっていたので、おやすみと一緒にさよならの挨拶も済ませておいた。Lと猫に見送られて出発。ベルヴィル駅のそばからタクシーでモンパルナス駅に直行し、再びル・マン行きのTGVに乗る。あいかわらず荷物置き場は封印され、きょうは斜め向かいの席に座っていたムスリム系っぽいおじさんが荷物を上げるのを手伝ってくれた。
約1時間後、ル・マンに到着。駅前のホテルのレセプションでは、初めてル・マンに来た日と同じマダムが出迎えてくれた。1泊だけなので、明日の朝食分も含めて先に会計を済ませ、今夜も遅くなるので玄関のコード番号をもらう。同じ値段の部屋だが、こんどはバスタブがついている!やったー!(←日本人な私)
と、まずは正午に始まるコンサートに行かなければ。支度をして、すぐにホテルを出た。
会場は、5月5日にリシャール・テクシェの個展を見に行ったCollégiale de Saint Pierre la Courだ。入口でJさんに再会。中に入ると、テクシェの作品は展示されたまま、中央にステージがしつらえてあり、ステージの前と左右の三方にパイプ椅子を並べてある。着いたときにはすでに半分以上の席は埋まっていて、コンサートが始まる頃には空席はわずかになっていた。
ディレクターのアルマンさんから紹介を受けて、ルシア・レシオがステージに上った。きょうは彼女のソロコンサートだ。ヴォイスパフォーマンスとスペイン民謡が交互に現れるのは、リヨンで観たステージに近い。後半、コンサートは観客参加型になってきた。
「中央のみなさん、私が合図したら「Hmm〜Hmm〜」って歌ってみて。こちら側の皆さんは「アーッハハハハッ」って笑ってね。反対側の皆さんは、そうね、なんでもいいわ!」
お茶目なルシアの指揮に合わせて観客もハミングしたり笑ったりする。笑い担当ブロックの前列にいた女性が、ひときわ良く響く声で元気よく笑い、他の観客にもウケてしまう。しかもこの女性がスペイン語の歌まで歌えるので、ルシアもご機嫌でノリノリになってくる。後で聞いたら彼女はフィル・ミントンのコーラス・プロジェクトの参加者で、しかもスペイン出身だそうだ。
会場にはギ・ル・ケレックも来ていた。今回はすれ違いで会えないかと思っていたので余計に嬉しい。
「Jazz Magazineの別冊を見たって?バーバー富士の写真を載せたんだが、コメントはあれでよかったかい?マスターの名前を間違えていないかと心配だったんだが」
「だいじょうぶ、間違いはひとつもなかったです。マスターがとっても喜んでましたよ」
JさんがカメラマンのCさんと私を車に乗せてくれて、私たちはEuropa Jazzのメイン会場のひとつ、L'Abbaye de L'Epauに行った。広い庭園の中に建つ美しい修道院は、その歴史を13世紀までさかのぼるという。修復工事を経て現在はコンサートや展覧会の会場として使われている(ちょっとわかりにくいが、サルト県文化センターのウェブサイトのこのページにアクセスして「Cliquez ici」をクリックすると、フラッシュアニメーションで紹介が見られる)。
私たちはコンサート会場に入った。これはJさんやCさんは当然のこと、私までフェスティヴァルのフリーパスをいただいたので可能だったことだ(建物の入口にはちゃんとガードマンがいるので、関係者以外は入れない)。せっかくの機会なので、コンサートが始まる前の会場を写真に撮った。(写真8)
中では建物の一部を使ってレストランも営業している。オードブルやデザートはセルフサービスで選ぶのだが、メインディッシュ(確か2種類あってどちらかを選べた)は給仕の女性が持ってきてくれる。しばらくすると、ルシア・レシオとグザヴィエ・ガルシアもやってきた。二人は32 janvierの来日ツアーをサポートしたNさんのことを懐かしがり、JさんとCさんは、私たちが東京ですでに会っていたということに驚いていた。
夜のコンサートはL'Abbaye de L'Epauで行われるがまだ何時間もある。今になって疲れが出てきた感じで、私は17時にパレ・デ・コングレで行われるコンサートはパスすることにしていったんホテルに戻り、ゆっくりお風呂に入った。(←日本人^^;)
再びJさんの車で会場まで連れてきてもらい、早めに到着。ミュージシャンの控え室とバーのある部屋へ。私はここで、今夜出演するドミニク・ピファレリと再会。じかに会うのは5年半ぶりだ。感激。
バーを仕切るフェスティヴァルスタッフの大柄なマダム(彼女が用意した料理なら絶対に美味なはずだ、というキャラクター)に、地元のおいしいリエットをどんどん勧められる間に開演時刻が近づいた。会場に戻ると、すでにたくさんの観客が入っている。前の方の席は全て埋まっていたので、ステージ向かって右側の、前から15列目あたりの席をとった。