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Louis Sclavis solo (cl,bass cl)
1999年4月10日(土)Chapelle Notre Dame de Pitie (Crannes en Champagne)
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最後は、スクラヴィスのソロ!です。これ、なんとかして聞きたかったのですけども、このクラン・アン・シャンパーニュという町(ではなく村)、電車もバスも通ってない場所なんです。行く前はあきらめていたんですが、奇跡のようなことが起こって、なんと美しい田舎の教会で彼のソロを堪能する、という幸運に恵まれてしまいました。
まったく図々しい所業でお恥ずかしい限りですが、聞くほうは面白いかもしれない^^;ので、ライブの感想より先にちょっと書きますね。
【La Flecheのできごと】
この前に訪れたLa Flecheという町で、ロンドンから来たといってツーリスト・インフォメーションの女性を呆れされたのは書きましたが、この時、ホール担当者の男性に、どうやってこの催しを知ったの?って聞かれたので、「インターネットでフェスティバルのサイトを見つけました。それから、友達がスクラヴィスのホームページを持っているんですよ。」と付け加えました(Mikikoさんのことですね(^^))。
で、言われたとおり、開演30分前にホールの前で待っていると、さっきの担当者がやってきて、席は大丈夫だからと言ってくださる。続いて、「こちらフェスティバルのディレクター」といって、ごっつい大男を紹介される(@_@)
「あなたのメール読みましたよ。(実は、出発前に何度も開場の住所や行き方を問い合わせていた。)意味がよく分からなかったので、プログラムだけ送ったんだけど、届いたかな。」
そーなんです、仏語でたらめで(^_^;;; それに、そもそも遠方から客が来ることなど想定していないようで、交通手段の問い合わせなんて考えてなかったのかもしれません(言い訳)。
それで、なんと、問題のCrannes en Champagneには、スタッフの車で拾っていってあげましょうとおっしゃるんです。もう何が起こっているのか。完全にミーハーな女の子(!?)と化して、感謝感激を繰り返すばかり。そんなわけで、翌日私はまた一人でル・マンに取って返し、夕方、スタッフの方の車でCrannes en Champagneへ連れていっていただいたのでした。
夢のように美しい村。小さなチャペルの前に着くと、あたりは鳥の囀りだけ。スクラヴィスのクラリネットが聞こえてきました。生涯忘れがたい風景と音、です。
【村のチャペルでスクラヴィスのソロを聴く】
何世紀のものか、石造りの入り口にかかっているマリア像も半分欠け落ちている小さなチャペル。フランスの田舎って、ずいぶん昔の風景が残っているんですね。昔の領主のお屋敷や、少し大きい教会、一軒だけのバー、あとは絵本の挿し絵のような農家や民家。でもちゃんと衛星アンテナがついてたりするけど。
そんな民家と昔の領主夫人の屋敷?に囲まれて、このチャペルがありました。受付を勤めるのは、近隣の町にある音楽学校の経営者のお嬢さんで、12歳と7歳の女の子。チャペルの木の扉の前に箱を置いて、そこでチケットをもぎるだけ。芝生の庭に置かれた木のベンチにパンフレットを並べたりして、のどかに開演までの時間を過ごしました。
この間、チャペルの中からは、ひとりでリハーサルをするスクラヴィスのクラリネットが聞こえてくるわけです。小雨混じりの湿った空気と草の匂いの中、鳥の囀りと遠くから聞こえる郭公の声(春なんだねえ、と誰かが言う)のほか、物音ひとつしない夕暮れに。…すみません、ちょっとした至福の体験をしてしまいました私。
もちろんスクラヴィスにとっては、数多い旅の演奏場所のひとつにすぎないのでしょうが…。開演前に思い切って立ち話をしてみました。「こういう場所で演奏なさるのって、どんなご気分ですか?」、「べつに。どこでも僕はおんなじだよー。だいたい、教会って昔から音楽をやる場所だったんだから。」
開演間近になると、続々とお客さんがやってきました。近隣の人の他は、もちろん車でしょう。スタッフを含め、全部で40〜50人くらい入ったか。ディレクター氏に続いてスクラヴィスも丁寧な挨拶。この村の関係者を始め、いろんな人の尽力に感謝します、というようなことを言っていました。
肌寒い晩でしたが、スクラヴィスの演奏の熱のこもっていたこと! もちろん、村のチャペルだからといって容赦はありません。ど迫力のすっごい即興。最初、時々楽器が湿って調子が悪くなるのもものともせず、でした。
祭壇の器物やキリスト像、マリア像の彩色はかなり鮮やかで、なんだか日本や中国のお寺を思い出す。ちょうど花盛りの八重桜が一枝飾ってあったからかもしれません。
一曲目は(CDで聴いたことがない気がするのですが)なにか古い民謡のモチーフのようにも聞こえる美しいもの。もちろんこれが凄まじく展開していくんですけど。最後はきちっと美しい主題で収める。お客さんはすっかり引き込まれた感じ。「Manoir」(屋敷)って曲も、こういう場所で聞くと実に雰囲気があります。
バスクラの口の部分をひっくり返してマイクに向け、穴の部分をぱたぱたパーカッションのように鳴らす技も受けていました。(これよくやりますね。)
最後は「Ceux qui veillent la nuit」のクラリネットによるソロでした。演奏前、タイトルを言いながらちょっと祭壇の方を見上げたりする。くすっと笑うお客さんもいる。何か意味深長なのか、宗教的意味は常識を共有していないと図りがたいです。日本でも演奏したと思いますが、ほんとに展開の大きい、一人でよくやってしまうなぁと思うような熱演。石の壁に反響する、狂った鳥みたいな高い音、声を入れながらの凄さに、耳をふさいで怖がってる?子供も。ほんとにほんとに、どうしてそこまで?と尋ねてしまいたくなるほど、すごい気合の込めようと持続力。
そういえば日本の知人の方が来日公演のソロをお聴きになって、「テクニックもさることながら、その表現力のすごさに、こういう人は日本にはいないんだよな〜と改めて感心した」という感想を知らせてくださったのですが、ほんと、表現力!なんだなぁとか。
最後はいつのまにか「Pourquoi une valse」でさらりと終わっていました。大拍手。アンコールの曲、タイトルが思い出せません。うー、耳についている曲ですが。誰かとデュオでも録音してなかったか、CD聞き始めると大変なので思い出したらまた書きます。とにかく最後まで手抜きなし。割れんばかりの拍手。隣に座っていた年配の紳士と顔を見合わせて、にっこりしてしまいました。「いやはや、すごかったね素晴らしかったね」という気持ちはお互い伝わったような。
外に出ると、長いこと日本では見たことのないような満天の星! 漆黒の闇!
せっせと自分の足で歩き見て回った旅の終わりの、夢のような一日でした。