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会場はラ・フレッシュのTheatre de la Halle au Ble。1999年のフェスティヴァルを見に行かれたナルトさんが、この会場でのコンサートレポートを書いてくださっている。
1839年にオープンしたこの劇場の舞台には、サラ・ベルナールも出演したという。老朽化のため1947年から閉鎖されていたが、1998年に修復された、小さな美しい劇場だ(このページで、少しでも劇場の雰囲気が伝われば良いのだけど)。
コンサートは当然とっくの昔に始まっていて、入口には2、3人のスタッフがいた。「ジモティ」のJさん夫妻はスタッフとも親しい。Jさんが私を紹介してくれる。「ああ、あなたのメールに返信していたのは僕ですよ」と一番若い男の子が言ってくれた。
さっそく劇場のなかへ。木のミシミシいう階段を上り、これまたギーッと音のする(劇場なのにい^^;)木製のドアを開けて、2階の、舞台に向かって左側のバルコニー席に別れて座る。1階も2階もほぼ満員。舞台に目をやった。
舞台にはルイとベルナール・リュバ。リュバは舞台中央でピアノを演奏している。ルイはクラリネットからバスクラ、ソプラノサックスへと持ち替える。リュバは「はたき」(それとも馬とかに使うムチ?)のようなものでピアノをぱたぱたしたかと思うと、ルイのこともぱたぱたやって、観客の笑いを誘う。リュバがマイクスタンドに向かって、私にはよくわからないがオモロイことをいろいろしゃべるかと思えば、ルイもバスクラのリードをはずしたところに口をつけたまま、なにかずーっとしゃべり続けたりする。リュバが舞台右手のドラムセットに移動すると(杖はついていなかった)、こんどはたちまちドラムスとバスクラでパワフルなインプロヴィゼーション(Jさんは、このときの演奏を「コルトレーンみたいだ」と言った。実はルイもコルトレーンを意識して演奏していたらしい)。
ルイは連日のライヴの疲れなど微塵も感じさせない。元気いっぱいで、リュバとのコンサートを心から楽しんでいるのが客席にも伝わってくる。なんだか、2002年の秋に香港でステージを観たときより、少し若返ったようにさえ見える。
背をのばして、眉を八の字にしてバスクラを吹くルイの姿が、一瞬、映像で観たことのある40代のミッシェル・ポルタルの姿と重なって、そんな風に感じている自分に驚いた。翌日、私はポルタル様本人とルイのデュオを見に行くのだが、そのときも、4年前のリヨンで2人のデュオを観たときも、別々にポルタル様やルイをステージで観たときも、2人の「姿」が似てると思ったことはないのに。
それにしても...私は2002年の冬、Sons d'Hiverフェスティヴァルでもリュバとルイのデュオ演奏を観ている。でも今夜は、そのときとは明らかに違うパワーがみなぎっている。これは気のせいなのか。フランスに到着したばかりで舞い上がっている私の問題か。いや、明らかにきょうの方が2人ともノッているのだ。これが「場」の力なのだろうか(Sons d'Hiverの会場は、ごく普通の近代的なシアターだった)。前日にも別の会場でライヴを行ったばかりの2人のヴァイブレーションがピッタリと合って急上昇しているのか。
演奏が終わり、2人が舞台袖に引っ込んでも客席の拍手はやまない。再び登場した2人は、まずとても静かな、短いインプロヴィゼーションを演奏。アンコールを求める拍手は続き、こんどはブンチャカブンチャカした(^^;)とてもリュバらしい演奏で会場を沸かせた。
3度目のアンコールでは、ベルナール・リュバが取り出したるフライパンの上に、羊と犬と蛙だったかな、動物の鳴き声を出すおもちゃを3つ並べて、犬の鳴き声がするのを選んだルイと「おもちゃで掛け合い」を始めてしまった。
4度目のアンコールになると、リュバはお疲れなのか初めは出てこなくて、まずルイがひとりでバスクラの長いサーキュラー・ブリージングソロ(Memoire des Mainsみたいなのね)、途中からリュバが登場すると、コンパニー・リュバお得意のダンスナンバーで締めくくった。
大きな拍手、拍手。リュバが腕時計を指さし「すまないねえ、もう時間がないんだよ」という仕草をすると、ようやく観客もあきらめ、拍手は静まった。
終演後、Jさん夫妻と一緒に楽屋のほうに入れてもらった私は、そこではじめてディレクターのアルマン・メニャン氏に会った。ルイはまだステージで片づけをしているよと言われ、一度降りてみたが、ルイはTVカメラ付きの取材を受けている最中だったので遠慮して楽屋に戻った。
楽屋のベルナール・リュバは、Jさん達と話し込んでいた。リュバはフランス・ジャズ界でもミュゼット・アコーディオンの世界でも「超」のつく大物だが、ぼさぼさ頭に髭面、だらーんとTシャツを着た様子は、やっぱり「森に住んでいるのっそりした動物」みたいなのだった。
取材を終えたルイが楽屋に戻ってきた。香港以来、1年半ぶりの再会。
「よく来てくれたね。元気だった?フランスには今日着いたの?この劇場は素敵でしょう?ボンボニエールみたいって言われてるんだよ」
「Jさんのおかげでここまで来れたの。ぼんぼにえーる?ああ、キャンディボックス。ほんとだー」
「こないだ、メデリック(・コリニョン)とデュオをやったところも素晴らしかった。11世紀に建てられた教会でね」
「見逃がした・・・」
「そうそう、君はいろいろたくさん見逃してるんだよ」
「・・・・・・(心の中で跳び蹴り)」
覚悟してらっしゃい。わたし、これから毎日あなたの追っかけよ。
「ルイ、5月6日にリヨンで演奏するって聞いたんだけどホント?」
「するよ!モーリス・メルル追悼コンサートで。君も行くのかな?」
「うん、もう行くって決めてある。良かった、ほんとだったんだ」
帰りはまたJさんご夫妻の車に乗せてもらった。Rさんが「ちょっとお腹がすいたでしょう?」と、リンゴと手作りのキッシュを出してくれた。夜中なのに、なんだかピクニックみたいで楽しい。
お二人は、私がセキュリティコードで無事にホテルの入口を開けるまで車中で見守っていてくださった。
今回の旅は、また特別なものになりそうだ。