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月曜日。今回の滞在で初めて迎える「平日の朝」だ。街の中心部はすっかり「にぎやかなショッピング街」になっている。
ブティックや美容院の並ぶ通りに、古書店があった。美術書を主に扱っているようだ。ウィンドーには、「タンタン」とかの古い漫画も飾られている。路上に出されたワゴンの上に、アンドレ・ブルトン『魔術的芸術』が無造作に置かれていたので驚く。カヴァーがなく、表紙が焼けていたのでかなり安くなっていたのかもしれないけど、怖くて(^^;)値段をチェックできなかった。店内もよく見てみたかったが、とても高そうなのでヤメタ。
近くのショッピングセンターに入っているFNACに向かう。フェスティヴァルの25周年記念イベントのひとつとして、ギ・ル・ケレックの写真展が開催されているはずだった。展示の始まった頃には、ル・ケレックとルイのトーク・セッションが行われたという(これは、ルイのツアーのプログラムに組み込まれていたものだ)。
ところが、店内のギャラリーの展示は、ちょうど今日から新しいものに入れ替わってしまっていた。がっくり。写真はjazz magazineの別冊に掲載されていたものと同じだと思うが、オリジナルプリントで見たかったので残念。
気を取り直して、アニメーション映画『ベルヴィル・ランデヴー』(という邦題に決まったのかな?来年正月公開らしい。いいよ。観てね)の「fnacだけの特典映像つき」DVDを購入。店を出たところにあるカフェテリアで昼食をとった。
今夜のコンサートは、カテドラルの近くにある修道院、Abbaye Saint-Vincentで行われる(妙に画像が重いが、外観はこのページで観られる)。今回のルイのツアーのうち、ル・マン市内の会場で行われたのは、この日と、俳優ジャック・ボナフェと共演した(うわーん、観たかったよー)4月26日の2回だけだ。
きのう朝市でにぎわっていた大通りをのんびり上っていく。会場を見つけるのはそれほど難しいことではなかった。修道院のある通りの名前がそのまま、「Rue de L'abbaye St. Vincent」だったから。
21時の開演には時間があったので、まだ空席が多かった。きょうは近くで観たいので、前から2列目の席をとる。
ステージには、すでにクラヴサン(チェンバロ)が準備されている。バロック音楽のコンサート等で見るクラヴサンには、たいてい豪華な装飾画が描かれている。しかしこのクラヴサンは、薄いグリーンの地に金色のシンプルな縁取りが施されたほかには装飾が全くない。
しばらくすると、「きのうお会いしたわね?」という声。打ち上げに来ていた上品なマダムだった。
アンリ・テクシェが大好きという彼女は、フランスで見た日本人ミュージシャンの話や、フェスティヴァルの会場にもなっているギャラリーの個展が良かったから時間があればご覧になって、とか、最近フランスでは日本茶がブームになりつつあって「良いワインを好む男性は良いお茶も好む」なんていう広告もあるのよ、なんていう話をしてくれた。
そうこうしているうちに開演しそうな雰囲気になってきて、ふと後ろを振り返ると、いつのまにか座席は埋まり、立ち見も出ているような盛況になっていた。
照明がおとされ、アルマンさんの挨拶が終わると、クラヴサン奏者のドミニク・セルヴとルイが登場。2人のデュオを観るのは初めてだが、以前、ラジオ・フランスの番組「A L'Improviste」でライヴを聴いたことはあった。
この日の演奏は、私の記憶に残っているラジオで聴いた演奏のイメージに近いもので、ほぼ全編がインプロヴィゼーション(ほぼ、というのは、簡単な譜面を用意した演奏もあったので)。中途半端な「情感」を寄せ付けないクラヴサンの硬質な音色。アブストラクトな演奏は現代音楽に近い印象。
そんな中で私が一番好きだったのは、イスラム音楽風の旋律をとりいれた、実はこの日の演奏のなかでは最もアブストラクトではなかったかもしれないものだった。セルヴはクラヴサンをウードのように弾き、ルイはクラリネットで、トルコとかの民族楽器みたいな「ぶいーん」というにごった音(←もっとマシな説明はないんかい)を出した...まるで実際にそういう民族楽器に持ち替えたみたいに、あっさりと。
この日の演奏を撮影した写真はギャラリーに掲載している。途中でセルヴとルイそれぞれのソロ演奏もあったが、2枚目のルイが片手でクラヴサンを弾きながらバスクラを吹いているのが、それ。
4枚目はアンコールの時の写真で、2人とも「普通に演奏していない」(それぞれの楽器を叩いている)のと、くわえタバコでクラヴサンを演奏する人を見る機会もなかなかないだろうと思って、撮ってみました。
コンサートが終わり、会場の外に出ると、ぽつりぽつりと小雨が降ってきた。
明日のお天気はあまり良くないらしい。