お待たせいたしましたm(_ _)m
ブノワ・デルベック&イニアテュス(Jerome Rousseaux)のインタヴュー第五回、「A propos de Morceaux Choisis」後半にして最終回にやっとたどり着きました。う〜ん今までで一番怪しいです。すみません。
すでにご案内していますが、ブノワ・デルベック・カルテットの来日スケジュールもありますのでご覧ください。それに、横濱JAZZプロムナードでは、ピファりんとジャン=フランソワ・ポーヴロスと同じ会場で続けて聴けるんだぞー。しかも一日に二つのフォーメーションで!これは凄すぎ!待ち遠しいぜ!
ここでひとつおわびを。第四回のうち、ブノワ・デルベックの発言の一部(まんなかへんの、カンタンのパパの話)が、アップ後約24時間ほど(^^;)表示されていませんでした。ごめんなさい。もう直してありますので。
ではでは、前置き、第一回、第二回、第三回、第四回とあわせて、どうぞ。
A PROPOS DE MORCEAUX CHOISIS (suite)
MORCEAUX CHOISIS について(続き)
Jerome:
たいていのロックやってる連中はジャズはうんざりと思ってる。ジャズの連中にとってシャンソンはクソッタレだ。連中がシャンソンを演るのは金のためで、ミュージシャンとしてやってるんじゃない。誰かジャズミュージシャンが僕がピアノを弾いてるのを見たら、きっと「なんだこりゃ、笑わせるぜ」って思うだろうね。
自分の価値観だけで他人への評価を決めつける奴が多いのには閉口する。違う世界の人と出会うことは凄く面白いのに。
僕は「実験」になり得るものなら何にでも興味がある。仲間のマチューと一緒にやるスタジオでの作業には、何の束縛もない。いろんなことをやってみて、上手くいかなければ止めるまでのこと。とにかくやってみなければね。"Morceaux Choisis" も全然上手くいかなかったしれないし。そしたら僕は止めちゃってたかもしれない。
Benoit: "Morceaux Choisis" では、普通シャンソンの仕事をするときの、時間をかけるレコーディングとは違うことをやってる。僕らはほとんど時間をかけなかったんだ。
Jerome: あのやり方でも困らなかったよ。僕は気に入ってる。
Benoit: できれば録音は1回だけ。ゲリラ戦だね。そんな風にしてあのアルバムをつくったんだ。逆に、ミキシングには手間をかけた。場合によって、もっと繊細な音にできたはずなのにいまいちだなっていうシンセサイザーの音があったら、同じ部分を別の音で弾いてみるんだ。急いで仕事をしろという要求はスティーヴが出した。でもそれは僕らに他の方法がなかったせいでもある。1枚のアルバムに3カ月かけることも可能だけど、その間も食べていかなきゃならないわけだし。しかもこれは、ある意味でジャズから離れないでいるための、直観を働かせるやり方でもあった。だんだん、このやり方に慣れてきたよ。
Jerome: 1,2,3,4,スタート!って具合。シャンソンやポップでは全然違う。歌を何度も録り直し、トラックを増やしていく。それで音質は良くなるけど、ちょっと殺菌されたようなものができあがってしまう。レ・ゾブジェにはそういう、髪の毛1本残さないような超清潔志向があった。美しくて、すべてがあるべき場所に配置されて、ピカピカに磨かれている。でも、曲のエッセンスとか、魂とか、濃密さは失ってしまっているんだ。
Benoit: プレミックスをたくさんやったよ。昔ながらのやり方で作業をした。キーボードとピアノは全部モノラル録音だ。ステレオ録音よりずっといいんだよ、途中で問題が起きないんだ。たいていモノラルの方が現実的だね。作業はすべて、一番シンプルな形でやった。
Jerome: レ・ゾブジェの完全主義的な面にはすごく苦労した。だから自分のアルバムでは、技術的にはぱっとしなくても何かが起こっている録音と、技術的に完璧な録音があったら、前者を選ぶよ。
- スタジオの中とコンサートは違う?
Jerome: ライブで演ってる時と比べたら凄いギャップがあるね...それにライブではユーモアの部分がある。そう、インプロヴィゼーションだ。僕がジャズから学んだもの。僕は気持ちのうえでインプロフィゼーションしている。その場で思いついた、わけわかんない歌詞で歌ったりするんだ。ライブでは、ときどき元通りの形でやる曲もあるけど、僕は曲の途中でバカをやるのが大好きだ。いままで同じ中味のコンサートを2度やったことはないし、これからもそうでありたい。
Benoit: そういう点で、僕らは似たもの同士だよね。
Jerome: 音楽的には僕の曲は構築的な、きっちり書かれたものだ。"Cent Ans (100年) "のあるヴァージョンともう一つのヴァージョンを比べてもそれほど違いはない。でも僕はバカやるのが好きでさ。だから僕のコンサートは変だよ。バカやるのって楽しいよね。
- リサイクラーズは、いわゆるシャンソンの型には親しんでいないし、そういう型からは外れてるよね。"Veuves Joyeuses" でもそうだったけど、その外れ具合が音楽によりフレッシュな何かをもたらしていると思う。
Benoit:
そして、それは自分たちの音楽を演奏する妨げにはならなかった。今になってはっきりわかるよ。僕にとっては、以前はリサイクラーズでやってることとシャンソンの仕事は別のものだった。僕はキーボードのプログラミングをやるから、ときどきシャンソンの仕事が来たんだ。そこでは頼まれた仕事をするだけ、それはまた別の話だけど。
でも "Morceaux Choisis" の制作が進むにつれ、これはノエルもスティーヴも同じだったんだけど、境界線がなくなってきてね、これはジャズ、これはロックっていう「判決」がなくなったんだ。少しずつ上手くいくようになり、いろんなことに気づくようになってきた。
何年も、シャンソンには興味が持てなかったんだ。勉強はしたし、演奏の仕事もした。僕が選んだことを続けるために必要な仕事だった。頼まれればシャンソンをやったけど、それは生活のためで、自分のやりたいこととは完全に分けていたんだ。
それはともかく、リサイクラーズとか他のバンドでやってることは歌詞がないからシャンソンではないけど、ちょっとシャンソン的なところもあったりする。逆にシャンソンの変奏をやっていくこともあるよ。カトリーヌやサシャと一緒にコンサートをやったときは、リサイクラーズの曲の替わりにシャンソンをやったんだ。
それが上手くいけばいくほど、皆がインプロヴィゼーションするようになるんだ。セット・リストなんてなかった。ある日はノエルが何かテーマを弾いて、ある日は僕が弾いて、またある日はスティーヴがタムでテーマをやる。それからもっといろんなテーマがあって...先に決めていたアレンジはなかった。
歌が入っているときの違いは、僕の場合、歌が入ってると旋律に関して自由でいられるんだ。主旋律を弾くのは僕じゃない。ノエルがテーマを弾くとき、僕が別の方向から弾く役に回るんだ。こういう行き来はしょっちゅうやっている。
考えてみればみるほど、リサイクラーズでやってることとシャンソンでやったことは近いと思う。シャンソンでは歌詞が優先する。音楽は歌詞がよく聴きとれるようにしなければならないし、その逆のこともある。リズムに合わせて弾く練習をするとき、たいていの人はメトロノームを使ってやってみて、うんざりするよね。でもメトロノームだって捨てたもんじゃない、共演すればいいのさ!メトロノームを楽器と考えれば、全然意味が違ってくる。その楽器の音を使って音楽を作ることになるんだ。そして、メトロノームを楽器として鳴らせる方法はあるんだ、たとえボロボロの音でカチカチ言っていようがね。
- それに君自身、演奏にメトロノーム的なところがあるよね。
Benoit:
ドラムスもやってたからね。僕はドラマーになりたかったんだけど両親は反対でね、ドラムスは音が大きすぎるから。で、僕は工事現場の大きなペンキ入れでドラムセットを作ったよ。スネアはビスケット缶の上にボール紙の板を置いたやつで、音が良く鳴るように中に鉛筆を入れてさ。僕の名付け親がスネアを買ってくれたときには両親はがっくりきてたね。レッスンを受けて、ちょっと小遣いを稼いで、買いたいと思っていたのはドラムセットなんだ。
幸い、あるドラマーと知り合ってピアノに興味が戻った。そんなわけで、僕は...フェンダー・ローデスを買ったんだ。ドラマー志望だったピアニストも、ピアニスト志望だったドラマーもたくさんいるよ。そんなところから僕の「リズムの織物」への興味が生まれたんだね。
僕はサイドマンでいるのが好きなんだ。決断するのは僕ではなく、他の誰かがやったことを最高のものにするように努力するんだ。僕のディスコグラフィがちょっと変わってるのは、そのせいなんだよ。ソリストとして演奏したり、自分のバンドを持ってキチガイじみた曲を書き、何か音に関するアイディアとか楽器に立ち向かっていくのも好きだ。このゲームも気に入ってる。でも、それはあくまでゲームなんだけど。
歌には、インスト曲にないパワーがある。"Morceaux Choisis" を作っているとき、スティーヴと一緒に、自分で一節を歌ったり、声を変えたりした曲を作り始めたのは偶然じゃないよ。それは音と直接アクセスすることになって、すごく興味深いことなんだ。それに対しインスト曲は、表現に関して完全な抽象性があるよね。
歌の仕事はいつもやりたいと思っていたけど、やるたびに失望していた。なぜって歌手とセッションするときは、ドナルド・フェイゲン風のエレピとか、ウェイラーズ風レゲエのリズムを注文されていたからね。それで、クリエイティヴなやり方で歌の仕事ができないかっていつも考えていたんだ。だから"Morceaux Choisis"を作れたことは、凄く嬉しく思っている。
- ジェロームは、"Morceaux Choisis"に参加したことが、以前とは違う音楽活動につながった?
Jerome:
僕はいつも、多種多様なものごとを吸収する努力をしてきた。ジャズも、ロックも、クラシックも、ワールドミュージックもサンプリングしてきたよ。1,2,3,4 で演奏し歌うやり方は気に入ってる。今までの僕に少し欠けていたことだからね。
自分のアルバムではいろんな方法がとれなかったんで、マシンとサンプリングに目をつけた。スタジオではドラムセットなんて出る幕なし。だからプログラミングをいろいろやるわけだけど、これも僕にとっては面白い。
また自分のバンドをつくるとしたら、本当に有能なミュージシャンと演りたい。ありきたりのベースラインしか弾かないような連中じゃなくてね。
僕にとっては、"Morceaux Choisis" への参加で大きな変化はなかったね。でも、こういう出会いが可能であると確かめることはできた。実際にやってみる、それでいいんだ。
(この項おわり)